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White Noise – An Electric Storm (1969)

 アメリカ映画『ローマの休日』の助監督として知られるBernard Vorhausの息子でダブル・ベース奏者のDavid Vorhausは、赤狩りを逃れた父の影響で渡英した。現地で行われていた現代音楽のワークショップに参加した時に出会ったBrian HodgsonとDelia Derbyshireとともに、前衛ユニットWhite Noiseを結成してからは、自らが持つ工学のバック・グラウンドを活かして真に独創的なアルバム『An Electric Storm』を完成させる。文字通りテープのツギハギからなる地道なコラージュと、巧みなポップ・センスが同居したサウンドは今聴いてもみずみずしさと自由にあふれており、何度でもリピートしたくなる。
 現在の技術をもってすれば『An Electric Storm』と同じサウンドを作り出すのはきっと容易なことだろう。しかし、シンセサイザーが世界を制す以前の1968年当時にVorhausが本作を完成させるには、アイランド・レーベルのChris Blackwellが切った3000ポンドの小切手と1年以上に及ぶ長い期間が必要だった。
 最初に録音された「Love Without Sound」や「Firebird」はVorhausのストリングスがなす酩酊感やJohn Whitmanのボーカルとコーラスが印象的な上質のサイケ・ポップだ。一方で乱痴気パーティーを音で再現した「My Game Of Loving」や、童謡のような無邪気さと狂気を湛えた「Here Come The Fleas」のような危険なアヴァンギャルド・ナンバーもある。「Black Mass: An Electric Storm In Hell」は、遅々とした制作状況に業を煮やしたアイランドにせっつかれたVorhausがセッション形式で録音したもので、Pink Floydの「A Saucerful Of Secrets」から影響を受けたPaul Lyttonのドラムがさく裂する実験的ロックだ。
 制作を支えたHodgsonとDerbyshireは本作を最後にWhite Noiseを抜け、グループはVorhausのソロ・プロジェクトとなった。75年のセカンド『Concerto For Synthesizer』はコンクレートから離れ、より現代音楽的なアプローチとなっている。