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Klaus Schulze – Moondawn (1976)

 Tangerine Dreamがアルバム『Electronic Meditation』でクラウト・ロックのアーティストを広く触発したのは1970年のことだが、実際Edgar FroeseとKlaus Schulzeが、シンセサイザーを自身の音楽に本格的に導入したのは70年代も半ばになってからのことである。さらに言ってしまえば、『Electronic Meditation』に含まれるテクノ要素はテープとモジュレータくらいだったのだ。
 本作でついに姿を現したモーグ・シンセサイザーの神秘的なサウンドは、すでに大作主義として確立していたSchulzeの世界観に大いに貢献しており、さらにThe Cosmic Jokersにも参加したHarald Grosskopfがそれに対抗するかのように生々しいドラムをプレイしている。ミニマルな電子音にはじまる「Floating」は、Grosskopfのビートが高揚していくにつれてSchulzeのシンセもダイナミックさを増していく27分間の音の遊泳だ。「Mindphaser」の冒頭で聴かれる波のイメージは穏やかだが、それは不穏な雷鳴によってたちまちかき乱され、後半ではSchulze流のロック・ミュージックの実践が繰り広げられる。初期のアルバムとは明らかに異なる作風だが、宇宙的な荘厳さと破壊的な衝動が同居した本作はジャーマン・テクノの初期の金字塔である。
 『Picture Music』や本作で商業的成功を掴んだSchulzeは、『Phaedra』で同様に成功しつつあったFroeseらとベルリン・スクールをけん引していく。彼らの作ったサウンドはニューエイジやアンビエントなど、数えきれないほど多様な音楽ジャンルの基盤となった。