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Gus Cannon – Walk Right In (1963)

 1963年、男女混声トリオのThe Rooftop Singersは陽気なブルース「Walk Right In」をシングル・ヒットさせたが、その原曲はGus Cannonによる戦前のジャグ・ソングである。当時のフォーク・ブームを受け、スタックス・レーベルは急遽Cannon本人による歌唱でレコーディングに取り掛かっているが、メンフィス・ソウルの名門である同レーベルにおいて、これはまさに異例の措置といえるものだった。
 Cannonはスタジオ・ミュージシャンとして二人の旧友を自ら招いた。ジャグ奏者のWill Shadeとウォッシュボード奏者のMilton Robyは、Memphis Jug Bandへの参加で知られ、特にShadeとCannonは1961年にも録音を残している。二大ジャグ・バンドの数少ない生き証人による演奏は、戦後に散逸した貴重な音楽文化の記録でもある。
 レコードの中にはCannonの回顧録の語りのパートも入っているが、彼の演奏も同様に昔の音楽を懐かしんでいるように聴こえる。しかし、Cannonの制作意欲は旺盛だったようで、本作の中で戦前からの古いレパートリーは実際「Walk Right In」くらいしかない。昔と変わらぬ軽快さでバンジョーを奏でる様子や、Shadeのジャグも加わった「Salty Dog」では、かつてのジャグ・バンドの雰囲気が見事に蘇っている。
 フォーク・リバイバルの時流はあったものの、レーベルの異色作で500のみのプレスという事情もあり、本作はすぐにコレクターズ・アイテムと化している。30年という月日は、往年の歌手が人々に忘れられてしまうには十分すぎる時間であったが、オリジナルのLPはブルース・アルバムの中でも特に入手困難な作品として、却って有名になった。