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Jeff Beck Group – Beck-Ola (1969)

 Jeff Beckの卓越したギター・テクニックと、強烈な個性を持ったグループ・メンバーの存在感が素晴らしいバランスで拮抗している、と言うだけでこのアルバムがいかに稀有な作品であるかが分かるはずだ。Led Zeppelinのメンバーをはじめとしたゲストの参加や、ブルースの古典がレパートリーの中心だった『Truth』に対して、5人の完全なバンド体制とオリジナル主義に移行しているのも特徴といえる。
 ブルースからハード・ロックへ羽化しつつあったグループをけん引するのはもちろんBeckだが、Tony Newmanのドラムの功績は特筆に値する。「Spanish Boots」の大仰にも思えるメリハリの付け方や「Rice Pudding」のビートは、後のThree Man Armyでのプレイを予見させるものだ。Rod StewartのハスキーなボーカルはBeckの歴代のボーカルでも特に印象深いもので、LP裏のクレジットには〈ボーカル(けた外れの)〉という断り書きさえあったほどだ。
 カバー曲はいずれもElvis Presleyの名曲を取り上げている。大胆なアレンジを施した 「Jailhouse Rock」は、前作のサイドマンから昇格したNicky Hopkinsのマシンガンのような連弾ピアノによって最上のヘヴィ・ロックに生まれ変わった。「Rice Pudding」の即興部では、BeckのギターとHopkinsのピアノが穏やかな水面のようにたゆたい、激烈なサウンドにあふれた本作のチルアウトの役目を果たしている。
 大胆なカバーによる逆説的なオリジナリティの発露、そしてBeck, Bogert & Appiceへ繫がるヘヴィ・ロックの追及など、『Beck-Ola』はBeck自身のキャリアにおいて非常に重要なアルバムだ。同時に、メンバーの後の音楽性さえうかがわせる興味深い傑作でもある。