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Elvis Presley – The Sun Sessions (1975)

 1956年にElvis PresleyがRCAレーベルから発表したファースト・アルバムの価値を否定できる人間など、この地球上にいるわけがない。しかし、当時LPレコードというメディアが曲の集合体に過ぎなかったことも確かであり、アルバム『Elvis Presley』は、実際のところサン・レコード会社時代の録音とRCAの録音をまぜこぜにした、まさしく急ごしらえの構造だったのだ。
 カントリーとブルースが表裏一体に響きあうサン時代の音源が、Presleyの初期録音という認識で世間に知られることになったのは、この75年の『The Sun Sessions』に依るところが大きい。Arthur Crudupによる「That's All Right」の飛び跳ねるように落ち着きのないシャウト、Kokomo Arnoldの傑作とされた「Milkcow Blues Boogie」をとことん我流に歌ってみせる気概、いずれにも彼の天性のセンスが表れている。
 Bill Monroeの「Blue Moon Of Kentucky」は、穏やかなブルーグラスだった元曲を早回しで歌うPresleyたち独自の様式を確立した重要な一曲だった。こうしたテンポや歌唱スタイルをアレンジすることの重要性は、音楽をカバーするという行為の持つ創造性を大きく加速させた。サンでは発表されなかった「I Love You Because」は2つのバージョンが収録されている。Presleyのささやくような甘いセリフが挿入されたバージョンは、70年代まで陽の目を見ることがなかった貴重なテイクだ。
 Presleyというアーティストのイメージが映画産業や大手レコード会社によって膨れ上がる以前の、最もプリミティブな姿をとどめたセッションが本作だ。歴史上最も偉大な男の、ただならぬ予感に満ちた姿がここにある。