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David Bowie – "Heroes" (1977)

 70年代のベルリンは東西のイデオロギー対立の象徴のような街であり、ロック・スターでいることに疲弊しきっていたDavid Bowieにとっては格好の新天地とも言えた。前作『Low』での前衛性も引き継がれているが、ベルリン・スクールの影響を強く受けた本作は、プロデューサーであるBrian Enoとの共鳴をさらに強めたサウンドを展開している。
 A面はシングル向けのロック・チューン「Beauty And The Beast」や、ダウナーなボーカルから力強いコーラスへ上り詰める「Sons Of The Silent Age」のようなナンバーが占める。対して「Sense Of Doubt」ではTangerine Dreamの静謐を、「Moss Garden」では純邦楽のサウンド(Bowie本人による琴)をそれぞれ導入したB面はまさにエクスペリメンタルの宝庫だ。そしてラストの「The Secret Life Of Arabia」では再びロックのテーマへ回帰している。
 一曲だけ題名がダブルクォーテーションで囲まれた「"Heroes"」は、東西分断に対する示唆に富んだ内容の歌詞であり、かつ歴史上最も社会に直接的な影響を与えた曲の一つだ。1987年にベルリンの壁付近で開催された象徴的な野外コンサートでは、Bowieは壁の向こう側の東ベルリンの聴衆に向けてこの曲を歌っている。彼の歌は、実際に現場で抵抗するデモ隊を過熱させ、ベルリンの壁崩壊を導いた正真正銘のアンセムとなった。
 本作は、内容の実験性を鑑みれば驚くほどの商業的成功をリアルタイムで収めている。しかし、「"Heroes"」という曲とBowieがもたらした歴史的な偉業は、どんなセールス記録よりも称えられてしかるべきだろう。