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Grant Green – Easy (1978)

 『Easy』は伝説のギタリストにしてジャズ・ファンクの先駆けでもあったGrant Greenの生涯最後のアルバムであり、そのアートワークには時代遅れのさび付いた蒸気機関車が描かれていた。だがその実、Green自身は当時まだ40代であり、老境の円熟や湿っぽいノスタルジーに浸るつもりなどさらさら無かったであろうことは、本作のA面に針を落とせば明らかだ。選曲は当時の最先端のポップ・ヒッツが目立っているうえに、ブルーノートの晩期に見られた70年代特有のネバついたブラックネスから、来たるべきスムース・ジャズの時代へ踏み込もうとする意思も感じてとれる。
 シングルにもなったLionel Richieの「Easy」とBilly Joelの大傑作「Just The Way You Are」に流れる、この優雅で落ち着いた雰囲気はどうだろうか。ストリングスとエレクトリック・ピアノの対照的なサウンドには、Greenの泰然としたギターのトーンが映えており、Hank Crawfordの艶やかなサックスは、都会的なNYのシーンにピッタリなムードを演出する。
 他に注目すべき曲は、ラテン色が程よく抜けて鮮やかなアーバン・ジャズと化した「Wave」、そしてWarren Zevonの名作『Excitable Boy』からの意外なチョイスとなった「Nighttime In The Switching Yard」などだ。後者では原曲にあったディスコの風合いが、パワフルなホーンとWayne Morrisonのギター・カッティングによって、より深みのあるファンクとして展開していく。
 ジャケットとは真逆の、柔軟でセンスのある選曲眼に次代を捉えたサウンド・メイキングが垣間見える傑作だ。それと同時に、聴けば聴くほどこれが遺作となったことが悔やまれもする一枚でもある。