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Fiddlin' John Carson – Complete Recorded Works In Chronological Order Vol. 1 (1997)

 バラードや陽気なダンス・ナンバー、センセーショナルな時事ネタまでフィドル一本で自在に表現したJohn Carsonは、カントリー・ミュージックにおけるもっとも古いレコード歌手の一人として知られているが、同時に歴史的に重要なブルース曲の録音を複数残していることでも有名だ。
 90年代に発行されたドキュメント・レーベルの第一集に収録されている「Casey Jones」と「John Henry Blues」は言わずと知れたスタンダードで、いずれも文明が近代化する波の中で命を落とした英雄的労働者を讃えた内容である。特に後者は同曲の最初期の録音ともいわれているが、黒人をヒーローとして捉えた歌を白人歌手であるCarsonがいち早く取り上げたというのは興味深いことだ。
 「The Little Old Log Cabin In The Lane」は1923年にリリースされた。弾き語りという原始的なスタイルながら、ノイズの中から聴こえてくるフィドルの音色にはやはりうっとりさせられる。カントリー・ソングのレコード化に商機を見出していたオーケー・レーベルは、「When You And I Were Young, Maggie」や「You Will Never Miss Your Mother Until She Is Gone」といったナンバーを1年に10枚近いハイペースで立て続けに発表していった。
 多くの録音が残されたが、現在の倫理的には危うく聴こえる曲も多かった。第三集収録のユダヤ人青年の冤罪事件をモチーフにした「Little Mary Phagan」は当時の反ユダヤ主義に少なからぬ拍車をかけたし、第二集の「Run, N****r, Run」にいたっては逃亡奴隷をコミカルに描いた前時代的なトラディショナル・ナンバーだ。この曲はアフリカ系囚人が歌った短いバージョンは各種サブスクリプション・サービスでも聴くことができるのだが、Carsonによる歌唱は現在配信が停止されている。