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Various – Field Recordings, Volume 6: Texas (1933-1958) (1997)

 1933年、アメリカの民俗音楽研究の大家であるJohn Lomaxは、米国議会図書館の資料収集のために、当時まだ10代だった息子のAlan Lomaxを連れてシュガーランドの刑務所農場を訪問した。これはAlanにとっては最も初期の仕事と言える歴史的な録音採集の記録である。CDで聴くことのできる録音はいずれも短いが、囚人たちは様々な歌詞のバリエーションを自在に組み替え、Lomax親子の前で歌うことが出来たという。Alanは旅先で出会った罪深き男たちとの交流を、後年の著作の中でも思い出深く回想している。
 〈鉄頭〉の異名をとった人相の悪いJames Bakerと、石で3人もの頭を砕いて殺害し〈クリア・ロック〉とあだ名されていたMoses Plattという2人の老囚人は特に民謡の宝庫だった。彼らのレパートリーの中でも「Ain't No More Cane」はテキサス州の黒人の間では広く知られていた(もちろん歌の起源など確かめるすべも無い)ようで、もとのタイトルは「Ain't No More Cane On The Brazos」といい、20世紀初頭の過酷な労働を歌ったワークソングである。1959年のSamuel B. Chartersの著書の中ではLightnin' Hopkinsがブルースにアレンジした逸話が紹介されたほどだ。さらに時代を経て、Bob Dylanが『The Basement Tapes』の中で録音し、The Bandがウッドストック・フェスティバルの舞台で披露したことで、ロック世代の人間も耳を傾ける歌となった。
 Plattは逃げ足の速さをしばしば自慢げに話す男でもあったようで、奴隷制の時代から受け継がれてきた曲「Run, N****r, Run」を歌う様には、彼自身の体験が反映されたかのような疾走感がある。一方、悲痛なBakerのボーカルが心に刺さるのは「Shorty George」だ。〈ジョージ〉とは夕方に刑務所の訪問客を乗せて移動する汽車のことで、愛する女性が外の世界へ戻ってしまう悲しみで胸が張り裂けるような恨み節である。そして「Old Rattler」のコーラスの見事な掛け合いが生むリズムには、思わずため息を漏らしてしまうだろう。
 もちろん刑務所録音以外も注目に値するものばかりで、特にストリート・ミュージシャンのGeorge Colemanが歌う終末的な「This Old World Is In A Terrible Condition」などは、まさにフィールド・レコーディングらしいナンバーといえよう。