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Don McLean – American Pie (1971)

 『American Pie』は、シンガーソングライターDon McLeanの名を永遠のものにしたアルバムだ。Buddy Hollyたちの航空事故死という史実をもとに、アメリカのロック少年の半生を詩情たっぷりに描き出したタイトル・トラックは、50年代の古きよき青春の風景を映し出している。だがMcLeanはそれにとどまらず、The BeatlesやThe Rolling Stones、さらにはThe Byrdsをはじめとした60年代のモチーフも、時にさりげなく、時にあからさまに盛り込んだことで、この8分半に及ぶ大曲に対する解釈の余地を大幅に広げてみせた。たとえば〈King〉という言葉を聞けば、多くの人がElvis Presleyを思い出さずにいられない、といった具合にだ。
 注目されやすい「American Pie」のようなピアノ・ロックだけではなく、狂気にとらわれた画家ゴッホの心情に迫るバラード「Vincent」や、神秘的なトラッド・ナンバー「Babylon」といったシンプルなフォーク・サウンドが本作の大部分を構成している。特に「Vincent」はイギリスのチャートで翌年に1位を獲得する偉業を成し遂げた。
 「American Pie」は混沌のなかで70年代を迎えたアメリカの人々の心に深く入り込んだ。76年のMcLeanのライブ・アルバム『Solo』でこの曲が歌われた際に起こった合唱の盛大さが、それをよく物語っている。