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Faust ‎– Faust (1971)

 70年代の初頭に生まれたドイツの学生コミューンには、左翼的政治思想と前衛芸術を愛する人間が集まっており、同時に思い思いの音楽表現を実践できる場も存在していた。Werner DiermaierとJean-Hervé Péronを中心に結成されたFaustもシーンの中で生まれたグループの一つで、彼らの存在はたちまちヴァージン・レーベルをはじめとしたイギリスのレコード会社と聴衆に注目された。だがその少し前に発表されたファースト『Faust』は、後年の高い評価とは裏腹にドイツ国内でも目立ったセールスは上げられなかった。
 「Why Don't You Eat Carrots」は耳障りなノイズとサウンド・コラージュ(一瞬だけ流れるThe Beatlesに気づいただろうか?)にはじまり、サイケなコンクレートや男女の会話、さらには熱狂的なジャズのパロディが含まれている。メロディの中核を形作っているのはJean Hervé Peronのトランペットやギターで、イカれたコーラスとともに繰り出される「Meadow Meal」でのギター・セッションには、Frank Zappaに似た雰囲気さえ漂っている。ようやくクラウト・ロックらしい無機質なビートが現れるのは、Werner Diermaierのドラムが印象的な「Miss Fortune」の前半部だが、それも次第にPeronやHans-Joachim Irmlerが起こす竜巻のようなフリーク・サウンドに蹂躙されていく。
 目まぐるしい展開で振り回しながらもどこかポップで、決して聴くものをはねつけることがない本作は間違いなくアングラ・ロック史上指折りの傑作だ。レントゲン写真を模した透明なビニールに印刷されたジャケットも徹底して作りこまれたアート作品であり、後年にはそれをリスペクトしてCDケースにわざわざ印刷を施すという粋な計らいをした再発盤も登場した。