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「砂と人類」のあまり注目されない関係が興味深い

限りある資源と言えば,石油やレアメタルなどが思い浮かぶが,まったく注目されていない「砂」の争奪戦が熾烈を極めつつある.これまで意識してこなかったものに注意を向けてくれる本を読むのはとても面白い.「銃・病原菌・鉄」(ジャレド・ダイアモンド)や「サピエンス全史」(ユヴァル・ノア・ハラリ)などもそうだ.

ヴィンス バイザー
砂と人類: いかにして砂が文明を変容させたか
草思社,2020

道ばたに掃いて捨てるほどある,どうでも良さそうな「砂」を,誰がどうして欲しがるのか.一体,何に使われているのか.本書「砂と人類」は,そんな初歩的なことから教えてくれる.

現代社会を支えるコンクリートや半導体の原料として,シェールオイル/ガスの採掘に,そして土地の造成に,砂は不可欠なものだ.世界の人口が増えつつある昨今,都市人口が急激に増え,それに応じて大規模なビルディング等の建設,そしてコンクリートの使用量が急激に増えている.コンクリートに不可欠な砂の需要も旺盛で,世界各地で砂浜が消滅の危機にある.コロナ禍で半導体不足がニュースを賑わせているが,半導体の原料であるシリコンを作るには,コンクリートに使うよりも遙かに高品質な砂が必要であり,そのような砂が採れる土地を占拠し,秘密を守るために,国際的企業が鎬を削っている.そして,ドバイの埋め立て地の写真を見たことのある人は多いだろう.海だった場所にあのような土地を生む出すために,どれだけの砂が必要か.そのような砂を自国内で調達できない国は輸入に頼る.輸出するのは他の資源に恵まれない国だったりするわけだが,そういう国々では環境破壊が問題になっている.というのも,違法な砂の採取が行われているからだ.

著者は,砂の争奪戦が激しくなり,人類が砂不足に陥る未来に警鐘を鳴らす.当然のことだが,砂も有限の資源であることに気付かせてくれる.

© 2021 Manabu KANO.

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