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論文を執筆するときに注力すべきこと

学位を取るために論文が学術雑誌(ジャーナル)に掲載されれば十分ですというようなレベルの話が対象ではない.できるだけ多くの人に論文を読んでもらい,研究成果を社会のために役立てたいと願うときに,どのように論文を書けばよいかという話をしておきたい.

まず,肝に銘じておかなければならないのは,ほとんどの論文は読まれないという現実だ.自分の専門分野であってさえ,論文数を稼ぐために論文が大量生産され,似たようなテーマの国際会議や国内学会があちこちで開催される現在,すべての論文に目を通す時間など誰にもない.査読者に指名されない限り,読みたいと思える論文しか読まない.

どのような論文が読みたいと思ってもらえるのか.

これがわかれば,そのように論文を書けばいい.そうだとすれば,どのようにして読みたいと思える論文を見付けているか,その過程を検討すれば,おのずと読まれる論文の条件が明らかになる.

私が思うに,論文を読んでもらうための条件は次の3つである.(とりあえず何か主張したいときは3つって言っておけという助言に従ってみた)

・キーワード検索でヒットすること
・論文タイトルで読む候補に挙がること
・論文要旨(abstract)で惹き付けること

以下,順に見ていこう.

キーワード検索でヒットすること

紙媒体が主体であった昔とは異なり,電子化が進んだ現在,学術雑誌(ジャーナル)の目次を眺めて,気になる論文を探すことはあまりしない.もちろん,定期的に送付されてくる学会誌や論文集の目次くらいには目を通すだろうが,ほとんどの研究者には,図書館に行って膨大な数の学術雑誌(ジャーナル)の目次を眺めるだけの余裕はない.

その分野をリードする研究者の論文は別格(ここでの対象外)として,通常は,データベースのキーワード検索で論文を探すことになる.つまり,キーワード検索でヒットしないかぎり,永遠に論文は読まれない.GoogleやYahoo!などの検索エンジンで上位表示されないページは世の中に存在しないに等しいと言われるのと同じ理屈だ.

重要なキーワードは,モレなく,論文のタイトルか要旨(abstract)に組み込んでおかなければならない.タイトルか要旨(abstract)という点に注意して欲しい.論文を絞り込むために,本文を検索対象から外す可能性が高いため,キーワードが本文に書かれているだけではダメだ.

念のために指摘しておくが,自分が書きたいキーワードを書けばいいのではない.他の研究者が検索に使いそうなキーワードを書かないといけない.少なくとも,そういうキーワードを忍ばせておくこと.

論文タイトルで読む候補に挙がること

論文の構成要素の中で,最初に目がいくのがタイトル(論文題目)だ.データベースの検索結果で表示されるのもタイトルだ.タイトルで第一印象が決まる.最重要なキーワードを厳選し,タイトルに含めておく必要がある.面白そうだな,読んでみようかな,と思ってもらえるようなタイトルにする必要がある.タイトルの文字数や単語数は厳しく制限されていることも多いため,ここは頭の使い処だ.

論文要旨(abstract)で惹き付けること

要旨(Abstract)が魅力的でなければ,論文は読んでもらえない.キーワード検索でヒットし,タイトルで読む候補に挙がったとして,次の段階は,要旨(Abstract)による読む価値があるかないかの判断だ.読者を「この論文は読んでおこう!」という気にさせなければならない.

最低限の要求として,研究の目的と結論が簡潔かつ明確に書かれていることが必要になる.要旨(Abstract)だけで,論文で最も主張したいことが伝えられないといけない.あれもこれもと欲張ってはいけない.贅肉をそぎ落とし,筋肉質で美しい要旨(Abstract)を目指すべきだ.

書いた後で,十分に時間をおいてから,客観的に読み直してみよう.その要旨(Abstract)を見て,心の底から「この論文は読んでおこう!」という気持ちになるか.知的好奇心を刺激されるか.論文が提供する価値(新規性や有用性)は明確か.もちろん,誤字脱字などは論外だ.

念のために一言

これまでに数多くの学生の論文原稿を見てきて,感じてきたことを,まとめてみた.敢えて書く必要もないと思うが,内容に価値があることが論文執筆の大前提だ.価値のない論文を書くのはやめよう.その上で,論文を書くのであれば,そしてそれを多くの人に読んでもらいたいのであれば,このようなことに気を付けるといいように思う.

読み返してみると,ブログやアフィリエイトサイトの検索エンジン最適化(SEO)みたいな話だが,実際,共通部分は多いと思う.

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論文を見付けて読む癖を付けよう

© 2020 Manabu KANO.

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