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「スタンフォード式人生を変える運動の科学」で運動の効能を再確認

運動しないよりは運動した方が良い.そんなことは知っている.誰しもそうだろう.ただ,知っていることと実行することは違う.だからこそ,実行する人は強い.圧倒的に強い.

本書は,著者がヒアリングした数多くの印象的な事例を紹介しつつ,心理学や脳神経科学などの知見を交えて運動することが人体に及ぼす影響を説明しつつ,運動の素晴らしさを説いている.

スタンフォード式人生を変える運動の科学
ケリー・マクゴニガル,大和書房,2020

ただ,「スタンフォード式」はいかさまだろう.著者のケリー・マクゴニガルは,確かにスタンフォード大学の心理学者で,「フォーブス」の「人びとを最もインスパイアする女性20人」に選ばれたり,TEDで「ストレスと友達になる方法」をプレゼンしたり,ベストセラー書籍を書いたりと,優れた研究者だ.しかし,本書に書かれていることがスタンフォード大学公認というわけでもないし,「スタンフォード式」の意味がわからない.「スタンフォード式」と書いておけば売れるだろうという出版社の思惑なのだろうが,個人的には気に入らない.原題は"The Joy of Movement: How exercise helps us find happiness, hope, connection, and courage"であり,Stanfordという単語はない.

もし「スタンフォード式」と謳うなら,「スタンフォード式 疲れない体」くらいの内容はないとダメだろう.

元々スポーツが嫌いであったという著者が,今ではグループエクササイズの指導を行うようになり,しかもそれが大好きだという.ちょっとしたきっかけで,グループエクササイズのリーダーになりたいと思い,それを実現するために一歩踏み出したことで,人生が変わった.そのような経験から,運動することの素晴らしさ,一歩踏み出すことの大切さを伝えたいという想いが伝わってくる.

運動する習慣のない人が運動を始めるのは簡単ではない.運動を継続するのは遙かに難しい.ただ,運動の性質を知ると,継続できるかもしれないという希望の光が見えてくる.

運動はある種の依存症のようなもので,運動をせずにはいられない状態になれば,継続するのは容易になる.ただ,すぐに依存できるわけではなく,週3回くらい運動するとして,6週間ほどが必要とされる.6週間,ジョギングでもダンスでもサイクリングでも何でもいいので,運動を継続すれば,運動することが当然になる.運動しないことに違和感を覚えるようになる.

運動には気分を高揚させる効果もある.内因性カンナビノイド,ドーパミン,エンドルフィンといった脳内化学物質の影響に触れつつ,様々な薬物の影響とも対比させながら,著者は運動の効能について説明している.運動は心身両面でよい.

「目的のない希望は長続きしない」と言われる.困難を粘り強く乗り越えるための必要条件は,
1.明確な目標を持つこと
2.目標に到達するための道筋や方法を知ること
3.自分にはそれをやりとげる力があると固く信じること
とされる.これらを身に付けるのに,容易には達成できない大きな目標を設定して運動に取り組み,実際にその目標を達成する経験をすることは極めて効果的だという.このような取り組みによって,重い障害を持つ人達がそれを乗り越えて希望に満ちた人生を送るようになっている.

達成感を得られるくらいに負荷の高い運動というのは,薬物と同じくらい気分を高める効果があり(例えばランナーズハイ),運動は鬱にも効く.ただ運動をするだけでなく,運動をしながら音楽を聴く,運動を自然の中で行う(グリーンエクササイズ),運動をグループで行うことによって,運動の効果をさらに高めることができる.

本書では,運動の効用を,単に健康になるというレベルではなく,人生を変えるモノとして描いている.そのことを読者に納得させるために,数多くの事例を紹介している.このような多数の事例紹介を用いる方法は,デール・カーネギーの「人を動かす」や「話し方入門」などでも用いられており,実際,効果的だ.読者は自分に引き付けて理解することができる.

さあ,何でもよいので運動しよう.

私はサイクリングだ.今年6月には2泊3日で青森を走った.今年はさらに,松本・安曇野・白馬を走り,乗鞍エコーラインと乗鞍スカイラインを通って松本から高山へ,標高2700mを超える山越えを楽しむつもりだ.

さらに,毎日行う運動としては,骨ストレッチがある.これは効果が素晴らしいのでお勧めしたい.


© 2021 Manabu KANO.

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