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「アフォーダンス入門」で行為と環境の関係を見つめ直してみる

アフォーダンスとは,心理学者ジェームス・ギブソンの造語で,環境が動物に提供するもの,用意したり備えたりするものとされる. 動物の行為は,アフォーダンスを利用することで可能になり,進化してきた.本書はタイトルの通り,ギブソン心理学の中核を為すアフォーダンスの入門書として書かれている.

アフォーダンス入門 知性はどこに生まれるか
佐々木正人,講談社,2008

アフォーダンスの入門書として,本書が特徴的なのは,「種の起源」でお馴染みのチャールズ・ダーウィンの研究を導入部分に持ってきていることだろう.ただし,「種の起源」を紹介しているのではなくて,ダーウィンが執念深く観察し記録した動物や植物について書いてある.これは本論とは違うが,とても興味深かった.

その一例がミミズの観察だ.ダーウィンのミミズ博士ぶりが凄い.その執念が凄い.地表のあらゆるものが地中に沈んでいくのはミミズのせいだとする自らの主張を確かなものにするため,半生をかけて,ミミズの糞による沈下を計測し続けた.さらにダーウィンの死後にまで,彼の息子が計測を続けている.ミミズの積み上がる糞が高々年間数mmなため,観察に膨大な時間がかかったわけだ.しかし,その執念の観察の甲斐があって,最初に論文を発表したときには反論する研究者もいたが,ダーウィンが正しかったと考えられている.

もう一つの例は珊瑚礁だ.珊瑚礁にはいくつかの種類がある.裾礁(きょしょう),堡礁(ほしょう),環礁(かんしょう)と言うと聞き慣れないかもしれないが,堡礁は英語でバリア・リーフと呼ばれる.そう,オーストラリアのグレート・バリア・リーフはこれだ.

http://kyushu.env.go.jp/okinawa/coremoc/sango.html

珊瑚礁にいくつかの種類が存在することは知られていたが,そのような形状の違いが生まれるメカニズムは明らかにされていなかった同時,ヴィーグル号航海時の観察に基づいて,そのメカニズムを突き止めたのもダーウィンだった.いやはや凄い研究者だ.

本書「アフォーダンス入門」のまえがきには,次のように書かれている.

ここで紹介されるアイディアの多くは,現在,ぼくらが持っている人間のこころやふるまいについての常識とはまったく異なるものです.

たとえばこの本では,意味がぼくらの脳にあるのではないと言っています.眼や耳などの感覚器官から入ってくることと,まわりにあることを知ることとはあまり関係がないとしています.身体とまわりの世界には境がないと書いてあります.「自己」はどこにも定まっていなくて,世界の中に刻々とあらわれるものだとしています.ぼくらが一つではなくて多数の身体を持っているとしています.遺伝か環境かという議論は,人の発達を説明できないとしています.ぼくらのしていることには正しいこともまちがいもないのだとしています.ぼくらが生きつづける理由はぼくらの中にではなくて,外にあるとしています.

(中略)

おそらく読者はこの本を読み終えたときに,このようなおかしな主張の一つぐらいはたしかにありうると思えるはずです.そう思えたときには,まったく新しい感じを,この世界についてもてるはずです.

これを読んで本書を読み進めてみようと思った.そのような興味を持つ人は本書を読んでみるといいだろう.

ただ,個人的な読後感としては,そのような試みに必ずしも著者が成功していないのではないかという気もする.

© 2021 Manabu KANO.

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