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「宇宙創成」の謎を巡る人類の挑戦と闘い

サイモン・シンの「フェルマーの最終定理」が非常に面白かったので,宇宙の起源と行く末について書かれた本書「宇宙創成」を読むことにした.宇宙は人類共通の謎で満ちあふれている.「今の科学でここまでわかった 世界の謎99」(ナショナル・ジオグラフィック,2018)でも,宇宙に関わる謎が多く取り上げられている.例えば...

63 宇宙はどのように誕生したのか?
66 暗黒物質(ダークマター)とは何か?
81 他の惑星に生命は存在するのか?
83 我々はマルチバース(多宇宙)に存在しているのか?
84 ダークエネルギーとは何か?
85 宇宙はどのような終わりを迎えるのか?

古代から近代に至るまで,宇宙がどうなっているのかを明らかにしようと試みてきた人類.その歴史を概観したのが「宇宙創成〈上〉」だ.天動説から地動説への大転換,そしてビッグバン・モデルを生み出すことになった一般相対性理論について詳しく書かれている.

コペルニクスやガリレオのことは誰しも知っているわけだが,それと同様に,あるいはそれ以上に興味深いエピソードが随所に盛り込まれている.例えば,一般相対性理論がビッグバン・モデルにどのように繋がってきたか,激変する天文学の世界で,アインシュタインやハッブルがどのような役割を果たしているかがわかる.

サイモン・シン(Simon Singh),「宇宙創成」,新潮社,2009

宇宙創成〈下〉では,宇宙は大爆発で生まれたとするビッグバン・モデルと宇宙は不変であるという定常宇宙モデルとの大論争が主題になっている.地動説の正しさが明らかになり,科学に口出ししなくなっていたカトリック教会が,宇宙は大爆発で生まれたとするビッグバン・モデルの中に神を見いだし,再び科学と宗教が入り乱れようとする.両陣営が感情をむき出しにして激しく対立する様子が鮮やかに描かれている.理論屋と観測屋が互いに反目しながらも,補い合って,一歩一歩,宇宙についての理解が深まっていく.その科学的前進を,セレンディピティが一気に後押しする.現時点では,ビッグバン・モデルが主流派であり,その正しさは概ね信用されている.しかし,すべての問題が解決されたわけではない.なぜビッグバンは起こったのか.宇宙はどこへ向かっているのか.暗黒物質,暗黒エネルギーの正体は何か...

「フェルマーの最終定理」と同様,本書「宇宙創成」も読み応えがあった.

全く本題とは関係なく,翻訳に関することで,気になった点が1つある.ベル研究所のペンジアスとウィルソンの話のところで,「化学エンジニア」という言葉が出てくる.”Chemical Engineer”を日本語に訳したのは間違いないが,訳すなら,化学工学者とすべきだろう.あるいは,ケミカルエンジニアか.訳者は物理系らしいから,このあたりのことは知らなかったのだろう.それとも,「化学エンジニア」に違和感を抱くのは私だけか...

サイモン・シン(Simon Singh),「宇宙創成」,新潮社,2009

© 2020 Manabu KANO.

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