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大学院入試に向けた活動指針 ー 他大学も視野に

大学院入試は夏に実施されることが多く,これから願書を提出する学生も多いことだろう.私が所属してきた大学院(京都大学大学院工学研究科化学工学専攻および情報学研究科システム科学専攻)での経験をふまえて,大学院入試(修士課程または博士前期課程)を突破して,第一志望の研究室に進学するために知っておいて欲しいこと,そして実行して欲しいことをまとめておく.工学研究科や情報学研究科など理工系の大学院であれば大抵通用すると思うが,他分野のことは知らないので,必要に応じて他をあたってもらいたい.

今年(2020年)は,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で,どのように大学院入試が実施されるか不透明ではあるが,それがどのような形になるにせよ,ここに書くことは変わらない.

実行すべきこと

・大学院で取り組みたい研究分野を決める
・その研究分野で最高の研究室と教員を探す
・その研究室を訪問し,教員と面談する
・大学院入試の募集要項を精読する
・大学院入試の出題範囲,教科書,講義内容,過去問などを入手する
・勉強する
・願書は複数の大学院に出す

以下,順に説明しよう.

研究分野を決める

専攻単位で受験し,合格者が入学後に研究室を決めるのであれば,研究分野を決めるのは入学後でよい.学生が入学した後に一定の期間を設けて,研究室を順番に巡って,学生が行きたい研究室を選べるような仕組みを用意している大学もある.一方で,願書に志望研究室を書くようなところもある.この場合,出願時に研究室を決めておかなければならない.

特に他大学大学院への進学を希望するような場合,4回生の夏に大学院入試があるとすると,遅くとも3回生の間に,志望する大学院を決定しておく必要がある.実は,これが非常に難しく,他大学への進学が内部進学に比べて圧倒的に少ない一因になっていると思われる.というのも,大学の講義と研究は全く別物で,4回生で研究室配属されるとすると,3回生は研究についてほとんど知らないからだ.講義で顔を見掛ける教員がどのような研究をしているかを知らない学生が多いだろう.4回生になって研究室配属され,手取り足取り教えてもらいながら,1年かけて,ようやく研究の初歩を身に付けるというのが普通ではないだろうか.

つまり,他大学大学院への進学を希望するなら,周りと同じようにしていてはダメで,気合いを入れて情報収集する必要がある.大学教員には,優秀な学生に積極的に他大学大学院への進学を推奨する理由がない.惰性で大学生活を送っていると,道は開けない.

事前に具体的な研究テーマまで考えておく必要はない.「こんなことがしてみたい」という希望があれば十分だ.例えば,化学工学を主とする専攻を志望するのであれば,プロセスシステム工学なのか,環境なのか,反応なのか,分離なのか,生物なのか,といったところを決めておけばいいだろう.情報系なら,理論なのか,ある分野への応用なのか,機械学習なのか,自然言語処理なのか.ある程度絞り込めれば,それでいい.

最高の研究室と教員を探す

大学も大学院も,もはや学校名だけで選ぶ時代ではない.志望する研究分野が決まったら,その分野で最高の研究室と教員を探そう.ここで強調しておきたいのは,日本国内から探さなければならないという制約はないということだ.気合いを入れて,海外の大学も含めて探してみよう.もちろん,種々の理由で海外には行けないという人もいるだろう.しかし,国際的な視点で研究室を選ぶという意識が大切だ.この文章を読んでいるような人は,将来,国際的に活躍する人材だろう.国内の大学院に進学するにしても,そこで国際的に活躍するための基礎力を身に付けなければならない.それが可能な大学院に進学しよう.

では,レベルの高い研究室や教員をどのように見付けるか.これが問題だ.とりあえず,その研究分野のキーワードで検索して,ヒットするような研究室や教員から調査してみるといいだろう.世の中には研究者検索サイトもあるので,そういうサイトを活用するのもいいだろう.

国際的に活躍している研究者であれば,その定義から明らかなように,
・英語論文を書いている(日本語論文はほぼ日本人しか読まない)
・国際会議で論文発表している
のは当然だろう.研究業績を見て,英語での論文発表がないような研究者は候補から外す.なお,論文の数は研究の活発さを示す指標ではあるが,重要なのは研究の質なので,数のみに目を奪われないようにしよう.その上で,
・国際会議で基調講演(招待講演)をしている
・学会等から論文賞や技術賞などを受賞している
などの実績があれば有力候補になるだろう.研究活動が国際的に注目されていれば,国際会議での発表を依頼されたりする.また,研究成果が非常に高く評価されたなら,授賞対象にもなる.研究者の履歴を調べてみよう.

なお,国際的に認知されている研究室であったとしても,学生にとって,その研究室が良い研究室かどうかはわからない.学生を労働力としてしか考えていないような研究室には行かない方がいいだろう.学生が国際会議で発表しているか,論文の著者に含まれているかなども確認してみるといいだろう.論文の第一著者がどれも教授という研究室があれば,要注意だ.第一著者というのは,その論文に最も貢献した人がなるべきだが,それがすべて教授というのは,教授が職権を乱用している可能性がある.もちろん,スーパーマンのような教授もいるが,見極めが必要なのは間違いない.

研究室を訪問し,教員と面談する

当然ながら,研究者として優れているのと,人間として優れているのとは,異なる概念だ.研究業績だけで人物を判断することはできない.研究室や教員の候補が決まったら,その研究室を訪問し,教員と面談しよう.所属している学生の声にも耳を傾けるのがよい.

他大学の教員に訪問を申し込むのは気が引けるかもしれないが,全く問題ない.訪問を嫌がるような教員であれば,学生の教育に情熱がないのかもしれないので,そのような研究室は候補から外した方が無難かもしれない.ただし,国際的に活躍している研究者は,学生の想像を絶するほど多忙だ.そんな研究者が学生一人のために時間を割くのであれば,学生は礼を尽くさなければならない.

師事するに足る教員を見出して下さい.その出会いは,何物にも代え難い,人生の宝となるだろう.私自身,大学院から助手にかけての時代に指導していただいた教授から多大な影響を受けた.まさに恩師であり,研究者としての現在があるのも,その先生のおかげだ.詳しくは「博士課程進学という決断:青年の大成 - 学生に読んでおいて欲しい本」に書いたので,是非,読んで欲しい.

募集要項を精読する

志望する研究室が決まったら,募集要項を入手し,精読しよう.ただし,募集要項が公開されるのは受験の数か月前になるので,まずは前年度の募集要項でも構わない.その場合,受験時の試験科目や評価方法が大きく変わることがないか,志望する研究室の教員に確認するといいだろう.募集要項には出題科目が記載されているので,まず,これを確認しないと話にならない.例えば,英語の場合,独自の試験を実施する大学院もあれば,TOEICやTOEFLを課す大学もある.京都大学大学院情報学研究科システム科学専攻は後者で,TOEFLのスコアを評価に利用している.

教科書,講義内容,過去問などを入手する

高校の講義内容は全国共通だが,大学の講義内容は千差万別だ.教員が自分の教えたいことを教えているためだ.同じ科目であっても内容が同一であるとは限らない.使用する教科書も,英語であったり,日本語であったり,様々だ.大学院入試問題は,それぞれの大学での講義内容に基づいて作成される.このため,受験しようとする大学院の学部での講義内容を知ることは不可欠となる.

また,出題される科目の教科書を知るだけでは不十分だ.教科書のどの部分が出題範囲なのかを把握しなければならない.さらに,教科書に書かれてはいなくても,教員が説明している内容があるかもしれない.圧倒的に有利な内部進学者と戦うには,情報収集に全力を尽くす必要がある.

受験勉強の必須アイテムは,過去問だ.少なくとも,過去3年分以上の過去問を入手し,勉強を始める前に目を通しておきたい.何を勉強しなければならないかが掴めるはずだ.最近は,ウェブサイトで過去問を公開している大学院も少なくない.公開されていない場合には,大学院の事務に問い合わせてみよう.あるいは,進学を希望する研究室の教員に相談してみよう.

勉強する

以上の準備が整ったら,後は勉強あるのみだ.周囲の学生が何をしようが関係ない.自分の人生を切り開くのは自分だ.自分の選んだ道を信じて,ひたすら勉強しよう.

願書は複数の大学院に出す

念のため,願書は複数の大学院に提出しよう.何が起こるか分からないのが入試だ.バックアッププランを用意しておこう.

おわりに

世の中には,学歴ロンダリングなんていう言葉もあるが,恐らく,それは自分の実力に自信がない奴の遠吠えだ.無視して問題ない.大学と大学院で異なる学校に行くのは,世界では普通のことだ.大学卒業後に一度就職してから大学院で学び直す人も多い.井の中の蛙にならず,自分にとってベストの環境を求めよう.

博士課程進学という決断:青年の大成 - 学生に読んでおいて欲しい本」という記事もあるので,参考にして下さい.あと,「大学や大学院で身に付けておきたい力」も是非.


© 2020 Manabu KANO.

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