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フーリエ級数展開は関数の座標を決めている

ほとんどの工学部の学生はフーリエ級数展開を学ぶと思うが,これが何をしているかということを,イメージを持って理解しておいて欲しい.というのも,何の因果か,大学3回生を対象にした,フーリエ級数展開やフーリエ変換の講義を担当しているからだ.これらに限らず,数学を勉強するときは,イメージを持つことが大切だ.式変形ができても,そのイメージを持てていないと,実際に使うのは難しい.

あなたが今いる場所はx,y,zの3つの座標 (x, y, z) で表現できる.この3つの座標を使うと,他の誰かの場所も特定できる.我々は3次元空間に生きているからだ.2人がどれだけ離れているかは距離を計算すればわかる.(時間は無視)

さて,関数 f(x) も無限に存在する.x の多項式であったり,指数関数であったり,三角関数であったり,何でもありだ.それらの関数はどの程度似ていて(近くて),どの程度異なる(遠い)のだろうか.それを知るためには,関数 f(x) の座標を求めればよい.

座標を求めると言っても,x,y,z座標系が使えるわけではない.では,どのような座標系を使えばいいのか.パッと思い付くのは,x,y,z座標系のように,座標軸が互いに無関係な(直交している)座標系を使えばいいだろうということだ.そのような座標系を直交座標系という.直交座標系はいくつもあるが,フーリエは三角関数が座標軸(の向きを表すもの)として使えることに気付いた.それがフーリエ級数展開だ.

座標軸(の向きを表すもの)と書いたが,線形代数で習う「基底」というやつだ.互いに直交する基底は直交基底というのだった.思い出そう.

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ある関数 f(x) は3つの三角関数で表現できるかもしれない.ちょうど,x,y,zの3次元空間であなたや私の位置を記述できるように.{ 1, sin(x), cos(x) } だけで f(x) が表現できるなら,上図(右)のようになる.

別の関数 f(x) は正弦関数だけで記述できるかもしれない.奇関数であればそうなる.ある関数 f(x) を記述するためには無限個の三角関数が必要になるかもしれない.これは無限個の座標軸を用いて関数 f(x) の位置を特定することに相当する.

三角関数 { 1, cos(x), sin(x), cos(2x), sin(2x), ... } を座標軸(の向きを表すもの)として,関数の座標を求める.あるいは関数の正体を暴く.これがフーリエ級数展開であり,そのとき求めたフーリエ係数が座標となる.

この直交分解のイメージが持てると,パーシバルの等式が三平方の定理の拡張であることがわかるだろう.さらに,フーリエ変換やウェーブレット変換,主成分分析など,色々な方法がスッキリと整理できる.

(高校数学までの知識があれば読めるようにしたかったので,雑な説明だけど,イメージが大切なのは確かだ)


(2020年5月20日追記)
ある方からこの記事についてのコメントをいただいた.私もそうだったが,こういう深いところで理解する経験をして欲しい.

この幾何学的な道具立てを用いた一般化した概念は、とても豊かで直感的で、初めて理解した時には目の鱗が何枚でも落ちる体験でした。
「任意の関数は内積空間内におけるベクトルであり、ありとあらゆる正規直交基底で張る(展開する)事が出来る」というのは本当に美しい数学的光景ですね。

© 2020 Manabu KANO.

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