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本の紹介・読書の記録

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#人工知能

AI 2041:人類は人工知能をうまく扱えるか?

とても面白く刺激的な思考実験小説と技術解説だ.生成AI・基盤モデルが劇的な進化を遂げる今,自分の頭だけで考えられることなんて僅かだが,こういう本などを読んで刺激を受けたうえで,色々と考えてみることは大切だろう.果たして,20年後の人類社会はどうなっているのか.人類は人類の幸福のために人工知能をうまく使えるだろうか. 本書「AI 2041 人工知能が変える20年後の未来」は,人工知能に関連する技術を取り上げて,合計10個の小説として20年後(2041年)の未来社会を描いている

情報科学に欲望を託す「デジタル・ナルシス」

元々1991年に出版された古い本だ.当時私は大学生だったが,インターネットが一部の人達に使われ出した頃で,ほとんどの人はまだ電子メールの存在すら知らなかった.エキスパートシステムに代表される第2次人工知能ブームが下火になりかけた頃とも言えるだろう. だから,いまどきの生成AIなどは一切登場しない.先端的な技術論ではなく,本書「デジタル・ナルシス」が取り上げるのは,現代の情報化社会を切り開いた情報科学のパイオニアたちの生々しい生き様だ. 本書では6人の研究者が取り上げられて

「超デジタル世界」について考えてみる

ChatGPTなどの大規模言語モデル・生成AIが猛威を振るう前に出版された本であり,その話題はない.デジタルトランスフォーメーション(DX)やメタバースの表層的な技術紹介ではなく,ハウツウ本でもなく,ハイデガーなどの哲学も参照しつつ,社会文化に踏み込んだ考察がなされており,とても読み応えがある. 本書は日本のデジタル敗戦の話題から始まる.日本がデジタル後進国となってしまった原因はどこにあるのか.他方,GAFAMを生み出し独走するアメリカはどうなっているのか,どうなっていくの

社会を激変させる「生成AI」の現状を把握する

アルゴリズムの話は一切なく,文章や画像の生成を中心に動画や音楽の生成も含めて,現時点で,どのようなツールがあって,どこまでできるのかを概観している.文章ではChatGPT,画像ではStable Diffusion,など.その上で,将来の教育や仕事についての展望が示されている. 著者は「新サービス探検家」を名乗るライターだが,こういう新技術に飛びついて試してみるのは楽しいだろうと思う.数式は一切出てこないし,読みやすく書かれているので,生成AIに詳しくないユーザが読むのに適し

オードリー・タンから「デジタルとAIの未来」を学ぶ

公益のために尽くす,公益のためにデジタル技術を駆使する,自分に何ができるかを考えて行動する,というオードリー・タン氏の姿勢がよく伝わってきた.読むと台湾が羨ましくなる本だ. オードリー・タン氏が繰り返し強調しているのは,「デジタル技術は社会の方向性を変えるものでは決してない」ということだ.目指すべき社会を実現するために,人間が人工知能やデジタル技術を活用するのであって,人工知能やデジタル技術によって目指す方向性を変えるわけではなく,ましてや人工知能が人間に社会の方向性を指し

ビッグデータと人工知能 – 可能性と罠を見極める

第三次人工知能(Artificial Intelligence: AI)ブームが到来し,そのエンジン役であるビッグデータ(Big Data)解析や深層学習(Deep Learning)が耳目を集めている.チェス,将棋,碁といった頭脳ゲームで機械が人間を打ち負かすようになり,機械翻訳の水準も向上し,ある用途に特化して用いられる弱い人工知能(weak AI)は既に身近なものになってきた.さらには,使用目的を限定しない汎用人工知能(Artificial General Intell