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本の紹介・読書の記録

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2021年9月の記事一覧

「統計学を哲学する」ことでデータサイエンスの足下を見つめ直す

先日,本書「統計学を哲学する」を執筆された大塚先生の講演を聴く機会に恵まれた.京大のある集まりでのことだ.本書の内容をかいつまんで話されたが,理解するのは大変だった. 統計学を哲学する 大塚淳,名古屋大学出版会,2020 本書の目的は「データ解析に携わる人にちょっとだけ哲学者になり,また哲学的思索を行う人にちょっとだけデータサイエンティストになってもらう」ことだと書かれている. この目的を達するために,本書では,ベイズ統計,古典統計,モデル選択,機械学習,因果推論などの

「人類と科学の400万年史」で人間味溢れる科学者たちの活躍と苦悩を知る

人類の歴史を教えてくれる本を読むのは楽しい.ただの年表であったり,出来事の羅列ではなく,登場人物に光をあてて,エピソードをちりばめながら,物語として読ませてくれるものが好きだ. 本書の著者レナード・ムロディナウは,物理学者であると共に,テレビドラマの「新スタートレック」や「冒険野郎マクガイバー」などの脚本執筆も手掛けている.観客を楽しませるのには慣れているわけだ. この世界を知るための人類と科学の400万年史 Leonard Mlodinow,河出書房新社,2020 本

坂バカ志賀直哉の「自転車」衝動買いが桁違い

「小説の神様」と称される志賀直哉は,69歳のときに書いた「自転車」という作品(昭和26年11月)の中で,自転車狂だったティーンエイジャーの頃を振り返っている. 私は十三の時から五六年の間,ほとんど自転車気違いといってもいいほどによく自転車を乗廻していた.学校の往復は素より,友達を訪ねるにも,買物に行くにも,いつも自転車に乗って行かない事はなかった. 当時は日本製の自転車はなく,ほとんどが米国からの輸入品であった.英国製の自転車(米国製よりも高価)も少ないながらあったらしい