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夫と発熱

夫が発熱した。だいぶ昔の話だが。

受診して、いま流行中の新型ウイルスに感染していることがわかった。
後になって、複数の人間が発熱を隠して仕事してたことが発覚し、感染源は明らかであった。
めったに発熱しない夫であるからして、なんとなく予感はしていた。
でしょうね、というわけでフリーランス夫婦は二人で自宅待機することとなった。

そしてこれも予感していたことだが、夫婦ふたりっきりでの自宅待機において、最も重要なものはもちろん猫である。
猫のあくびと肉球と口元のふにふにとした部分にはストレスを吸収する効果があるので、日常生活の急な変化に人間が対応しやすくしてくれるのだった。

イラッとするできごとがあっても、
「どうして脱いだ靴下を床に置くんだろうねぇ」
「なんでトイレの電気がつけっぱなしなんだろうねぇ」
と、猫と一緒になんでだろねーと不思議がることでなんとか乗り切れる。(個人差)

夫は発熱初心者のため、
「2日も熱が続くなんて、変だ」
「関節が痛いようなしんどいような感じがするなんて、変だ」
などと、発熱ベテランの私に言わせればちゃんちゃらおかしい発言をしているので、発熱とはそういうものですよと言い含めた。

まったくこれだからインフルエンザにも罹ったことない人間は。

発熱する夫を尻目に私はすこぶる元気なため、野菜をたくさん取り寄せてはどんどん常備菜を作り置き。
おかずをコンテナに詰めて積み上げ、みっちみちになった冷蔵庫を見てうっとりするなどした。

一日中とにかく猫と全力で遊び、猫を日に干しながら本を読み、冷蔵庫をみっちみちにして過ごす日々。
楽しい。
こんなに自分が自宅待機に向いている人間だったとは。
まだまだいけるぞ!

しかし、夫はいけなかった。
2、3日で完全に復活した夫は、残りの1週間の待機期間をどうにももてあましている。
窓の外をじっと見つめて、散歩したい……などとつぶやいており、目つきがなんだか危ない。
これはまさか、自宅待機の禁を破って外に飛び出してしまうのではないか。

危険な思想から夫の気をそらすべく近所のお寿司屋さんからお寿司をデリバリーしてもらった。
ほらほらお寿司だよ、と食べさせると散歩のことなど忘れたようで、簡単なことだ。

あんなに対策を頑張ったのにも関わらず結局は私も感染し、待機期間が予定よりも伸びてしまったが、まだまだいけたな、という手ごたえだ。
夫は先に期間が満了し、元気よく散歩に出かけて行った。
彼はこのあたりが限界であった。

今回の全員自宅待機で得られた知見としては、

・常備菜はたくさんあってもそんなには食べられない
・何でもかんでも置き配が可能
・夫は発熱に弱い
・とにかく猫は偉い

などが挙げられよう。

おうち好きの私としては、あの2週間の記憶が甘酸っぱく懐かしい。

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