夫の包容力と箸
私と夫の共通の趣味は、なんといっても晩酌に尽きる。
この春は全く外食ができない時期もあったが本来は、家やなじみのお店でおいしい肴とお酒をいただくのが大好きなのだ。
おかげでエンゲル係数が大変なことになっているが、他に贅沢する人間ではないので今のところ暮らせている。
さほど食事のマナーにうるさいわけではない私だが、夫との食事で気になってしまうことがある。
何もかも、あるべき場所におさめないのだ。
外食ではもちろん、わが家で食事する際も必ず箸置きを使うのだが、夫は決してそこに箸を置かないのである。
それはいい。
器に渡し箸する方が慣れていて気楽だということだろう。
箸置き集めは私の趣味でもあるのだから、それを彼に押し付けるつもりはない。
コースターを器用に避けてグラスを置くのである。
なぜ避けるのか。その分テーブルが狭くなってしまうのに。
コースターだけが置かれているスペースは純粋な無駄である。
コースターが濡れたグラスの底に張り付いてしまうのが不快なのか、コースターの上に何か別のものを置きたいのか、などとしばらく観察したがそういう素振りはない。
なんだ、もう食べないのか、という顔を向けてくるだけだ。
それでもよい。楽しく飲み食いしているのだから、小さいことでガミガミ言いたくない。と思っていた矢先、
夫が自分の箸を料理が残っている大皿に立てかけたではないか。
これでは自分の取り皿に料理を取りたい時に大皿を持ち上げたり、移動させたりすることができないではないか。
どういうことだ。
この残りは全部自分のものだというアピールなのか。その意図をまたも考え込んでいると、夫が
「これおいしいから食べな食べな」
と、自分の箸立てかけ大皿料理を私に勧めてくるのである。
夫は基本的に無邪気で優しい人間なのである。
箸置きやコースターぐらいで悶々と悩んでいる自分がちっぽけに感じてくる。
なるほどこれが包容力か(たぶん違う)。
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