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10 食べられない社会はなぜできた?

「地域食支援」の実践は次の3要件である。

  1. 生活支援の視点で実践する

  2. 本人、家族のみならず、地域の様々なサービスを適切に利用して食支援を行うこと

  3. 最期まで口から食べられるための社会づくり

 今回は「3.最期まで口から食べられるための社会づくり」について考えてみる。今回は、なぜ、口から食べられない社会になったのかを考えてみる。その要因は主に次の3つ。

  1. 「禁飲食」のような指示があることを一般の方が知らない

  2. 過度なリスクマネジメント

  3. 代替栄養手段がある

 1つめは、自分や自分の家族がそうなってみないと「禁飲食」という指示が出ることを知らないこと。さらには、現代日本が最期までは口から食べられない社会であることも知られていない。私の症例でも前日まで普通に家族と同じものを食べていたのに、翌日発熱して入院。入院先で誤嚥性肺炎と診断され禁飲食という指示が出て、体力低下、栄養不良などが起こり、「もう食べられません」と宣言された方がいる。家族の驚きと憤りは相当なものだった。この方は、ST、管理栄養士の協力もあり、その後好きなものを食べられるようになったが、医療者の指示を守り、食べられずに終わるケースは多い。これが現実であることをどれくらい一般の方が知っているだろうか。

 もう1つは、過度なリスクマネジメントである。誤嚥性肺炎という言葉が一般化したのは良いことだと思うが、誤嚥性肺炎を過度に恐れるばかりに、医療者も、一般の方も口から食べることに消極的になっている。その割には誤嚥と窒息が混同されていたり、咀嚼と嚥下が区別されていなかったりする。このような知識不足によって「食べることは怖いこと」と考えられているケースは多い。しかも、胃ろう造設によって誤嚥性肺炎が予防できるというデータはないにも関わらず、予防のために胃ろうを入れられたケースはごまんとある。

 3つ目は、何よりも代替栄養手段があるということ。1990年代中盤から起こった胃ろうブーム。今は間違った胃ろうバッシングによって胃ろう造設は減少したかもしれないが、静脈栄養などの代替栄養手段を利用している方は多い。「口から食べられなくても栄養がとれる」ということはとても有用なことであるが、「他にも栄養がとれる方法があるのだから口から食べさせなくてもよい」という文脈でとられると食べられない人が多く出てくるのは当然である(食べられるはずなのに)。

 このような現状の根底にあるのは、医療者も、一般人も正しい知識がないことである。単純に、「口から食べて誤嚥をすると誤嚥性肺炎になる」と考えられている。むしろ、食べさせないことによって嚥下機能低下、口腔環境悪化、そして唾液誤嚥によって誤嚥性肺炎の発症リスクが上がることはあまり知られていない。

 1990年代から在宅医療、食支援に関与してきたものとして個人的な憶測がある。1990年代中盤、偶然にも3つのイベントが合致した。

①日本の摂食嚥下リハビリテーションが普及してきた。口から食べられない障害に対してアプローチできるようになってきたが、その評価によって「食べられない人」も増加してきた。
②誤嚥性肺炎がトピックとして社会に取り上げられるようになった。「口腔ケアによって誤嚥性肺炎が予防できる」という論文が作られたのもこの時期である。
③日本で胃ろうが普及。

 これらが社会に一気に広まり「食べるのは危ない」「高齢者が誤嚥すると誤嚥性肺炎で亡くなる」「口から食べなくても胃ろうがある」という社会の雰囲気が「食べられない人」「食べさせてもらえない人」を増加させたと考えている。

#社会 #禁飲食 #リスクマネジメント #誤嚥性肺炎 #胃ろう   #摂食嚥下リハビリテーション

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