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12 定義を作る意味

  「食支援」という言葉を使ったことがある方、聞いたことがある方は数多くいる。しかし、その意味を尋ねると、「なんとなく…こんな感じ」というような曖昧な答えが返ってくるだろう。しかも「こんな感じ」が人によってかなり違う。私は食支援研究家と名乗りながら、「口から食べられなくなった方に食べる喜びを取り戻してもらいたい」と考えている。しかし、「子どもの食育は大事。その手伝いをしたい」と考えている人もいるだろうし、「発展途上国でちゃんと農業の文化を根付かせ、地球から餓死をなくしたい」と考えている人もいるだろう。どれも食の支援であることは間違いない。食は生活。その幅は広く、支援の内容も大きく異なる。

 私自身は、1997年から訪問歯科診療をする中で、摂食嚥下障害で口から食べられなくなった方に多く対応してきた。摂食嚥下障害のリハビリテーション分野では、発展当初から多職種連携の重要性を訴えていた。もちろん病院での連携が念頭にあってのことだったが、私は在宅ケアの現場で活動する中で、地域の仲間たちを集め、地域食支援チームを作り、何か活動しようと考えた。
 そして実際、東京都新宿区で一緒に活動する仲間が集まり、今後の活動内容を考えようとした時、一人の参加者に言われた。「ところで食支援ってなんですか?」と。最初は戸惑った。自分自身は自らの活動の中で、「食支援はこんなことをすること」と勝手にイメージしていたが、それを言葉にできない。実際、文献等で食支援の定義を調べてみても一切出てこない。そこでまず、私が思っている食支援を言語化し、定義を作成することが必要だと考えた。そして以下のような定義を作り上げた。

本人・家族の口から食べたいと言う希望がある、もしくは身体的に栄養ケアの必要がある人に対して①適切な栄養摂取 ②経口摂取の維持 ③食を楽しむことを目的としてリスクマネジメントの視点を持ち、適切な支援を行っていくこと。

五島朋幸:最期まで食べられる街づくり.静脈経腸栄養.Vol.30,No.5,P1107-1112,2015.

 個人で何かの活動するときには、自分自身の信念があればブレることなく活動ができるかもしれない。しかし、チームとして、他職種、多職種で活動するときは必ず定義がなければならない。この定義こそ共通言語になる。実際、新宿での活動初期、ミーティングのたびにこの定義を真ん中にし、どのような活動ができるのか、やろうとしている活動はこの定義から外れていないのかを必ず検討していた。逆に言うと、共通言語なき活動は思いつきとなり、一体感を失う。

 上記の定義は、新宿食支援研究会が活動するために作成したものである。しかし、地域によって加筆修正が必要な場合もあるかもしれないが、地域食支援を実践する中でこの定義から大きく異なるものは考えづらい。各地域の活動で有意義に使用して欲しい。

定義なくして活動なし。定義なくして目標なし。定義なくして成果なし。

 地域で、チームで食支援活動をするのであれば、食支援の定義は必ず定めなくてはならない。あなたの地域、あなたの活動に合わせた食支援の定義を作らなければならない。

#食支援 #定義 #多職種連携 #地域食支援 #活動


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