ゼレンスキー大統領

連日状況がトップニュースとして伝えられているが、ウクライナ情勢は予断を許さない状況が続いている。NATOがいくら東方に拡大し、ウクライナがNATO加盟を申請することでロシアがその脅威を感じていたとしても、それを武力で変えさせようというのは現代の国際常識からすればあり得ない選択だろう。まるで1世紀時代が後退したかの様だ。しかし、侵攻が始まってから2週間経ち、ウクライナ側の善戦とロシア側の混乱が度々伝えられている。

何よりSNSの時代である。実際の映像や国際状況が瞬時に把握できる現代においては、どんなにプーチンが大本営発表をしようとも、統制されたテレビなどのオールドメディアしか見ていないロシア国内の老人以外を騙すことは難しい。経済的な制裁も相まって、ロシア国内も反戦デモが繰り返されている。

さまざまな報道にもある様に、今回は両国のリーダーの差が大きく現れている。

スーツ姿で一方的に自分の思想を主張し、相手の非をあげつらい、部下である外相や軍関係者と大きく距離をとって高圧的に指示を出すプーチンと、政権幹部とTシャツ姿でキーウの防衛に当たり、「自分は国を守るために首都に残る」とSNSを通じて発信し続けるゼレンスキー。

どちらが支持を得られるかは明らかだろう。

恥ずかしながら、この戦争が始まるまで、ウクライナの大統領が誰か、ということについて関心がなく、全く予備知識がなかったのだが、国際政治上で彼が注目を集める状況になって衝撃を受けた。

コメディ俳優であったこと、ドラマで高校教師から大統領になる役をしたことから始まり、実際に大統領になったこと、侵攻直前の支持率は必ずしも高くなかったことなど、色々興味深い経歴ではあるが、演説やSNSの発信の端々に垣間見える深い教養と高潔な人を動かす言葉に、私は正直驚愕した。何より彼は44歳、私と同世代である。一体どういう経験を積めば、同じ程度の時間でこの様な「言葉」を手に入れられるのだろうか?

先日の英国議会でのオンライン演説では、シェークスピアやチャーチルの一節を引用してウクライナの現状と決意、そして英国が果たすべき役割に言及した。この様な相手の国の文学を引用して内容を自分の言葉として話せる教養を身につけている様な政治家が日本にいるだろうか?(いや、いない)

今のウクライナの状況は非常に危機的な状況だが、もし日本が同じ状況に置かれたら、この様なリーダーが現れる可能性は限りなく低いだろう。そもそも40代の(政治家としては)若者に国の運営を任せる様な度量が国民には無いし、ロシアの様に独裁者がいない代わりに、まともなリーダーシップを持った政治家を見たことがない。ましてや官僚が作った原稿を読むことしかできない様な日本の政治家に、深い教養と知性に基づいて自分の言葉で演説する様なことはまずできそうにない。(そもそも教養や知性が十分あるのか、疑わしい…)

そういう意味では、あの様なリーダーを持ったウクライナという国は今後の状況がどうなるかに関わらず、彼の名と共に歴史に刻まれるだろう。

厳しい状況に置かれていたとしても、彼の国がある意味で羨ましい。日本も明治維新や第二次世界大戦の様な、大きなショックがないと、変わらないのかもしれないと思いつつ、暗澹たる気持ちになる。

全身全霊で国を守ろうとするゼレンスキー大統領の言葉に、私は毎日心を打たれている。1日も早くロシアが兵を収め、彼の地に平和が訪れることを願いつつ。


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