2021年のノーベル物理学賞・化学賞についての雑感

2021年のノーベル物理学賞は気候変動モデルの開発と物理システムの解明の功績でShukuro Manabe氏、Klaus Hasselmann氏、Giorgio Parisi氏に。https://www.afpbb.com/articles/-/3369441

2021年のノーベル物化学賞は不斉有機触媒の功績でBenjamin List氏とDavid MacMillan氏に。
https://www.afpbb.com/articles/-/3369622

なぜわざわざAFP通信の記事を引用したかというと、日本の報道が余りにも偏りすぎていて辟易したから。

Manabe氏は日本の出身ではあるがアメリカ国籍を取得したアメリカ国民であり、研究成果もアメリカでの研究活動成果である。この記事にもある様に、研究資金を提供してくれたアメリカ政府に感謝されている。
https://news.yahoo.co.jp/articles/07c8a821fdfe89bfa6fcb52912c13c80365f8e56?fbclid=IwAR03-Mh2PaK0SoWruFpWBo6Ii75vXHBjuTiUCUeTd-0Ya0rZljKmW8x4xlY

つまり日本の科学技術の成果ではないと言うことです。日本民族としてはこういった方が活躍されるのは嬉しいことではあるのでしょうけど、国としては昔から優秀な人材をきちんと遇せないことをまた明らかにした例でしょう。それなのに日本のメディアはManabe氏の受賞を「日本の受賞」として報道するのは余りにも手前味噌過ぎる。

また、化学賞を受賞したList氏は北大WPIのPIで、こちらも日本に関係のある研究者の受賞だけれども、こちらも本拠はドイツのMPIで、あくまでWPIは兼任。北大WPIの先見性はたたえられるべきだとは思うが、これも日本の受賞ではない。

過去のノーベル賞受賞者がこぞって国に「基礎研究の充実」を訴え、すぐには成果に結びつかない研究にもベーシックな資金を提供することを訴え続けているが、国策は全く反対方向を向いている。昨今では中国の千人計画や、豊富な資金力で著名な研究者の海外流出が続いている。本田ー藤嶋効果の藤嶋先生が中国に研究室ごと移籍するなどは最近の大きなトピックだった。海外移籍する様な著名な研究者が居るうちは良いが、この状況を続けていれば、やがて日本は海外に移籍することすらできないレベルまで基礎研究が弱体化するのでは無いだろうか?

国立大学は法人化の過程で人材の流動性を高めるためという名目で、任期制の導入を進めてきた。また、毎年運営交付金を削減することでまさに大学の「自助」で運営することを求めてきた。

ところが本来任期制は優秀な人材がより良い環境でチャレンジできる様にするためであったはずが、団塊ジュニア世代の進学とポスドク1万人化計画、就職氷河期の時期と被ったせいで極めて激しいポスト争奪戦を誘起し、定職に就くことすらできない研究者を増産した。また、職につけた研究者も限られた任期と基礎的予算の不足で短期的な成果を出すことを求められ、さらに産学連携の推進や目先の課題を解決するための競争的資金を受けざる得なくなり、高度に知的に訓練され、深い思考から生まれる知的好奇心に基づく本当の意味での基礎研究はほぼ死んだ。現在もその状況は何ら変わってはいない。

ある意味で任期制は海外への頭脳流出を後押ししている側面もある。国内でポストが見つからないなら、他国へ行くのは当然の帰結だからだ。研究者はある程度の英語がしゃべれれば仕事になるし、いろいろ現地での苦労はあるだろうが、新しい知見を基に論文が書ける研究者はどこでもウェルカムだからだ。また、同じ任期付きでも国内だけでポストを探すより、グローバルにポストを選べる利点はパイの大きさを考えても大きい。

すでに失われた20年は過ぎ去り、日本の平均賃金は他国に比べて低くなり、韓国やスロベニアにも抜かれた状況である。
https://mymo-ibank.com/money/4273
また、少子高齢化により社会保障費は増える一方であり、この傾向が好転する要素は無い。すなわちこの国にいること自体が貧乏になる要因になっている。それなら海外に出ようというのは当然のではないだろうか?

解決方法は安定的なポストを増やし、基礎研究に投資する、という2点だけだと思うのだが、なぜこれができないのだろうか?GOTOに使うよりよっぽどマシな投資だと思うのだが…。




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