兵器と科学技術

ロシアがウクライナに侵攻して1ヶ月ほどが経過した。大規模な軍事侵攻で一般市民にも多くの被害が出ている状況を作り出したロシアに対して率直に怒りを覚えるし、被害に遭っているウクライナの方々に自分なりに何かできないか日々考えて、焼け石に水だとは思いつつも多少の寄付など、できる範囲のことをしてみている。

当初国際社会が警戒していたほどにロシア軍の進行スピードは速くなく、ウクライナ側の必死な抵抗によって侵攻が食い止められている。ロシア軍の士気が低いなど、人的な問題に焦点が当てられることが多いが、不謹慎ながら科学者の端くれとしてはその装備や使われている技術に興味が湧いてくる。特に今回の戦争で最も注目された兵器の一つがドローンだろう。

ゲームチェンジャーとしてのドローン

大型のトルコ製ドローン・バイラタクルTB2はすでにアルメニアとアゼルバイジャンのナゴルノ・カラバフ紛争でも戦車を破壊する兵器として注目されていた。ウクライナ側はこれを上手く使用している様だ。また、民生用の小型ドローンも数多く投入して、偵察や攻撃に用いているという。

不思議なのは、民生用の小型ドローンなどは電波などもそれほど遠くまで届かないだろうし、ジャミング電波などでコントロールを失う様なことがありそうだが、ロシア軍はその程度の対策もしていないのだろうか?あるいは技術的にそういったことを回避できるシステムがあるのだろうか?ロシア側の通信設備が脆弱なので、私物携帯でやりとりしている、という報道もあるくらいだから、ひょっとしてロシア軍はこういった通信技術が弱いのだろうか?

情報は戦場において最も重要なファクタの一つで、特にレーダーなどの索敵技術が向上した近代以降は特に通信技術の重要性が高いことはロシア軍も分かっていると思うのだけれど、技術が追いついていないのか、あるいはそこにお金をかけていないのか…?電磁場理論や通信に関して多くのロシア人研究者が論文を発表しており、そのレベルが高いことを考えると、この現状との解離に非常に違和感を感じる。技術レベルとして理論に裏打ちされたデバイスを作ることがロシアは苦手なのかも知れない。いずれにしても、ドローンによる偵察・攻撃が戦局を大きく変えているのは事実である。

国内の動き

さて、翻って日本である。防衛省も攻撃型ドローンの研究開発を進めるという記事が出てきた。すでに他国では運用が始まっているレベルなのに、これから研究って大丈夫か?という気もするが、やらないよりはやる方が良いだろう。また、国内でもドローンメーカーが最近勃興してきているので、民生の技術を使って早く実戦に耐えうる機体やシステムを構築して欲しいところ。しかし、驚いたのはその予算額。戦局を左右するようなゲームチェンジャーになるかも知れない技術にたった3,000万円の予算しかつかない。こんなんで開発できるかいな。

防衛省の安全保障技術研究推進制度

米国の軍事技術が最先端を走っているのは、DARPA(米国防高等研究計画局)が抱負な資金を大学・企業に提供し、軍民共用(デュアルユース)技術を磨いてきたからである。年間予算は32億ドルと言うことなので、ざっと4,000億円くらいだろうか。科研費を出している日本学術振興会の予算が2,678億円(2021年度)ということを考えると、いかに莫大な予算かがわかる。この予算での研究は必ずしも軍事技術に応用されるだけでなく、最先端の技術・サービスの基になっており、アメリカの国力を支えている。そういえばインターネット自体も元々は軍事技術だった。

アメリカは他にもバイオ・医療系の予算としてNIHがあり、こちらは年間予算309億ドル…。日本とは競争にならないですね…。

日本にも遅ればせながら平成29年に防衛省に安全保障技術研究推進制度ができた。予算は101億円(2021年度)…米国の約1/40。まあ、それでも無いよりはマシでしょう。専制国家は合理的な理由無く他国に侵攻することが今回のロシアのウクライナ侵攻で明らかになった訳だから、備えが必要なのは自明と思います。

ただ、私が所属する大学からは申請ができません。軍事技術の研究開発を行ってはいけないことになっているのがその理由ですが、このご時世でもそんなお花畑思想で大丈夫でしょうか…?国が無くなれば、特に国立大学はそもそも研究できる環境が無くなることが想像できていないとしか思えません。(だって「国立」大学なんですから…)

そうで無くても某TH大から中国に超音速推進技術が流出したりしている昨今、他国に技術を盗ませる一方で軍事研究を禁止するというのは、もはや国力を意図的に下げさせている様に感じるのは私だけでしょうか…?

実は私もある案件で本制度に申請したいと事務方に連絡したところ、本部から拒否され、さらに関連企業が申請をしようとしたところ、それも拒否されてしまいました。びっくりしたのは「先生の研究活動を適正に担保していく上で必要な判断となりますことから、ご理解賜りますよう、よろしくお願いいたします。」という、まるで、申請したら今後の研究活動を保障しないぞ、と脅しとも言える様な文言まで付いており、ここまで頑なに研究者のみならず関連企業の申請まで口出しする大学の姿勢に閉口しました。

大学の姿勢というのは日本学術会議の声明に依るところが大きいのですが、その声明には「軍事的安全保障研究と見なされる可能性のある研究について、その適切性を目的、方法、応用の妥当性の観点から技術的・倫理的に審査する制度を設けるべきである。」と書かれています。しかし、「軍事転用可能な」科学技術と「軍事転用できない」科学技術を分けることは本質的に不可能です。「最先端の科学研究」はそのほとんどが何らかの形で軍事転用可能ですし、軍というのは自己完結しなければならない組織であるので、陸海空宇宙のいかなる場所でも自己完結性を保とうとすれば、全ての科学知識を総動員する必要があるからです。

また、E=mc^2を出すまでも無く、素粒子の基礎研究が核爆弾に繋がったことを考えると、基礎科学の金字塔がそのまま世界を破滅に導く兵器になることは議論を待ちません。

となれば「軍事転用可能な」科学技術と「軍事転用できない」科学技術を分けることは本質的に不可能であることは自明であり、それを分けろという日本学術会議の提言はナンセンスです。日本の知識階級の頂点におられる方々がこの程度の議論しかできないというのは何とも不可解ですし、そこに裏の意図を感じてしまいます。

このまま日本の国立大学は本制度に応募することだけで無く、国防に資する様な研究を禁止し続けるのでしょうか?国が破れて国土が蹂躙されてから、「あのとき研究しておけば…」と言っても遅いのですよ。



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