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「宗教施設を避難場所に」、「倒壊と火災が東京を襲う 首都直下地震に備える」(『AERA』、2023年8月28日号、p.13.) 

 関東大震災では文明生活のもろさが指摘されたが、現代はその比ではない。100年前と比べて一極集中が飛躍的に進んだ首都が被災すれば、どうなるか。まず、深刻なのが帰宅困難者だ。記憶に新しい2011年3月11日の東日本大震災では交通機関がマヒし、東京だけで約352万人が「帰宅困難」となった。
 都防災会議地震部会が昨年見直した想定では、首都直下地震で都内の鉄道各社は軒並み運行を停止し新幹線も止まる。都内だけで帰宅困難者は最大453万人と、東日本大震災の約1.3倍となる。
 453万人のうち多くが勤務先や学校にとどまるとされるが、買い物客や観光客など約66万人が行き場をなくす。都は、駅周辺のビルや商業施設に帰宅困難者を受け入れる「一時滞在施設」の指定を進めてきたが、今年1月1日時点で確保できたのは約44万人分(1217カ所)で、約22万人の受け入れ先がない。

『AERA』、2023年8月28日号

そうした中、「寺や神社などの宗教施設を災害時の避難所として活用することが必要」と提言するのは、宗教と災害支援の関係を研究する大阪大学大学院の稲場圭信教授(宗教社会学)だ。
 「宗教法人は全国に約18万あり、6万店舗近くあるコンビニの約3倍。つまり、宗教施設は必ず地域の中にあります」
 そもそも寺や神社は、江戸時代から地震や台風などの災害時には避難所として使われ、人命を守ってきた。戦後、災害時の対応が主として自治体の責任になると、学校や公民館といった公的な建物が避難場所になっていき、宗教施設はあまり使われなくなった。しかし3.11以降、各地で地震や大雨による水害が続き、コロナ禍で分散避難が求められる中で避難所不足が浮き彫りに。そこでいま再び、宗教施設を避難所として活用することが求められている、と稲場さんは力説する。

「寺や神社には広い空間や畳部屋、井戸があるところも少なくありません。決定的に違うのは、地域で繋がっている寺や神社に避難することは、みんなで支えあいながら生きていけるということ。また、日本人は無宗教者が多いと言われますが、避難先に神様や仏様がいれば、心に安らぎを得ることもできます」
 稲場さんの調査では、すでに全国で300を超す自治体が約4千カ所の宗教施設と災害時の協力関係を結んでいる。さらに広げていくには、日頃から地域で寺や神社との関係性を築いておくことが重要と語る。

「災害時にだけ避難所として使わせてほしいというのは見当違い。普段から町内会や自治会が一緒に寺や神社と祭りや神事をしたり、境内の掃除をしたりしながら繋がりを築いておく。こうして災害時に1カ所でも多くの宗教施設が避難場所として開放してくれるよう、取り組みを進めていく必要があります」

(編集部・野村昌二)

AERA 2023年8月28日より抜粋

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