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意外に大きい石炭価格上昇の影響

インフレ、高齢者ほど負担 「貯蓄から投資」遅れも影: 日本経済新聞 (nikkei.com)

政府は、ロシアからの石炭輸入を段階的に削減し、全廃を目指す方針を打ち出しています。既に他のG7諸国ではロシアへの追加経済制裁としてロシア産石炭の輸入停止を打ち出しており、それに日本も足並みをそろえる形となっています。

経産省のデータに基いて、2021年における日本の石炭輸入割合を見ると、主に発電用に使われる一般炭で13%、原料炭で8%をロシアに依存しています。このため、今回の措置によって、日本経済に影響が生じることは必至でしょう。

既に、日本の円建て輸入石炭価格は直近2月で前年比2.5倍になっていますが、日本の現地通貨建て石炭輸入価格に5カ月程度先行する関係がある南アフリカの石炭価格は、ウクライナ戦争に伴うロシアへの経済制裁の影響もあり、直近3月時点で前年の3倍以上の高値になっています。

そこで、今後も世界の石炭価格が足元の水準で推移すると仮定して、石炭の輸入量が不変とした場合に輸入金額の押し上げを通じた名目GDPへの影響を試算しました。これによれば、輸入金額の押し上げを通じて、名目GDPを▲4.8兆円(▲0.9%)程度押し下げることになります。

したがって、石炭価格の値上げは、幅広い部門のコスト増を通じてマクロ経済全体にも悪影響を及ぼす可能性が高いといえるでしょう。

続いて、この影響の背景について直近2015年の産業連関表(総務省)を用いて分析すると、最も影響が大きいのは、石炭の投入比率が最も高い「石炭製品」となります。それに続くのが、石炭製品が燃料として使われる「再資源回収・加工処理」です。それ以外にも石炭価格上昇の波及は大きく、石炭を原料とする「電力」、「セメント」となります。同様に石炭を原料とすることから「銑鉄・粗鋼」「熱間圧延鋼材」「鋳鍛造品」「鋼管」「有機化学基礎製品」「化学肥料」というように幅広い分野に影響が出ます。 このように、石炭価格の値上げは、石炭製品をはじめ、電力、窯業・土石、鉄鋼、化学といった部門を中心に製品価格を押し上げることになるでしょう。

また、石炭価格の影響は価格面から家計部門に及ぼす影響も無視できません。事実、産業連関表を基に分野別に見れば、「電力」を筆頭に「小売」「飲食店」「娯楽サービス」「医療」といった品目の消費価格に上昇圧力がかかることになります。

このように、我々の日常生活に及ぼす影響まで考慮すれば、石炭価格の上昇は電力や小売価格の上昇といったパスを通じて家計にも影響を及ぼすことが予想されます。以上より、石炭価格の上昇はコスト増の面から見ても甚大であるといえるでしょう。特に、我々の日常生活に関連する分野としては、電力や小売等の価格上昇を通じて購買力を阻害する可能性も否定できません。従って、石炭価格の上昇は減速局面にある日本経済に対する大きなリスク要因と考えられます。

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