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防音性能が高いと住み心地が良いんです

住宅の性能表示というものをご存じでしょうか。
国土交通省では次の10分野での性能を表示するようにとしています。

① 構造の安定に関すること(必須)
② 火災時の安全に関すること
③ 劣化の軽減に関すること(必須)
④ 維持管理・更新への配慮に関すること(必須)
⑤ 温熱環境に関すること(必須)
⑥ 空気環境に関すること
⑦ 光・視環境に関すること
⑧ 音環境に関すること
⑨ 高齢者等への配慮に関すること
⑩ 防犯に関すること
このうち、表示が必須とされるものは太字の4項目です。
①は耐震に関するものと言っていいでしょう。大事です。②は必須ではないのですがこれは法令でガチガチですからね。大事です。③は木造ならシロアリとか、鉄骨造なら鉄筋のサビなんかですね。大事です。④は配管など定期交換が求められるものについてメンテのしやすさなどですね。大事です。
⑤は断熱、省エネなんかの話です。大事です。
で、今回は⑧の音環境に関すること、についてのお話です。これ、たぶんあまり大事じゃないと思われているようで順番は8番目、努力義務的なイメージでしょうか、外部検査機関はありますが実際に測定したという話はあまり聞きません。
では実際の生活でどのくらい「音環境」が大事なのか、どのくらい住みやすさに影響するのか、そしてより良い音環境にするために何ができるのかを考えてみましょう。


建物内での音漏れ、プライバシーはある程度諦めが肝心

ホテルに泊まったら隣の部屋のテレビの音がうるさくて気になる、あるいはシャワーやトイレの音が聞こえてきたということがありますね。普通のビジネスホテルの壁はただの衝立みたいなもので、マンションの部屋のようにコンクリート壁にはなっていません。それも薄い壁なので隣の部屋で見ている番組までわかるくらい音漏れがあることも。
さて、一般の住宅ではどうでしょうか、部屋の仕切り壁は通常、枠に石膏ボードが張ってあるということが多いでしょう。ホテルの壁よりも薄いかもしれません。プライバシーどこいった、というくらいに音が漏れます。また、いま使われる室内ドアは、空気を循環させる目的もあり、下部に数ミリの隙間を持たせてあります。当然ここから音も漏れます。
特に問題と感じる人が多いのはトイレです。トイレの扉も同じように空気の循環のために隙間があり、音が漏れます。
プライバシーの確保や同居人のために騒音を出さないようにしたいということですと、トイレや浴室の配置を生活のメインの場所(扉を防音タイプにしたり、後付けでも吸音壁紙や隙間テープを活用することになります。

YKKの、防音機能があるドア(のページ)です。トイレのドア以外でも、個別のドアに使うと良いでしょう。

それでも、どう工夫しても「聞こえなくなった」というレベルで防音できるものではありません。生活していく上での物音は、家族で共有するくらいの気持ちでいたほうが良いのではないでしょうか。

防音についてちょっと説明

ひとくちに防音と言いますが、防音、音を防ぐためにはいくつかのアプローチがあります。
・吸音
・遮音
・防振
のみっつが主になります。
建物の場合、吸音の代表例は断熱材であるグラスウールや発泡ウレタンなど、遮音は壁材や屋根材など、防振はゴムシートなどがあります。
なぜ音が伝わりにくくなるかというと、吸音の場合には音である空気の振動を熱に変えて弱めるという仕組みになります。遮音の場合は空気の振動をはねかえすという仕組みです。防振では音の発生する振動そのものを抑え込むという仕組みで、それぞれに適した素材も違います。

本題の「建物の防音」について

では本題です。家族の生活音が聞こえてくるのはあきらめがつくとしても、隣家の生活音が聞こえるのは嫌ですね。隣家の音が聞こえるということは、こちらの生活音も漏れ出ているということで、これも嫌なものです。
基本的に高気密高断熱を謳う住宅は、防音性能に優れていると考えて良いでしょう。現代の、そこそこの(80万円~程度)坪単価を取るHMや工務店なら、それほど心配しないでも大丈夫だと思います。
家に面した道路を普通乗用車が通って、エンジン音がうるさいと感じることは無いでしょう。風速3メートル/秒程度の風でうるさく感じることもないと思います。隣家で夫婦喧嘩が勃発しても、隣家が窓を開けて怒鳴り合わない限り内容まで聞こえることはないでしょう。
つまり、普通にHM、工務店で防音・遮音に気を遣わずに普通に建てるとこのくらいの感じで周囲の音が聞こえてくると思います。
・接道の自動車が乗用車なら通るのがわかる程度に音がする
・接道の自動車がトラックなどであればエンジン音がする
・接道を歩く子供がわいわい話しながら歩けば声が聞こえる
・隣家でテレビをつけているときに隣家がこちらに面した窓を開けていればテレビの音が聞こえるかもしれない(隣家のボリュームによる)
・カラスの鳴き声は聞こえる
・1ブロック先を通る救急車、消防車の音が聞こえる
・春一番程度の風雨(風速8m/s程度)では風の音がする
・雨の日に建物に当たる雨音がする
これらが、自分の生活音がする家の中で聞こえてくるわけですが、日中に家族が全員そろって生活している時間には、どれもそれほど気にならないかもしれません。しかし夜間や一人でいるときなど家の中が静かであれば、周囲の音がよく聞こえてくるでしょう。
自分や家族が立てる音は、それほど気にならないものですが、外部から聞こえてくる音には敏感になるものです。
特に防音を謳っていなくても、高気密高断熱の家であれば、同時に防音・遮音効果があると思っていいと思います。

防音効果のある窓

音は空気を波で伝わる性質がありますので、真空では音が伝わりません。ですから、真空の複層ガラス窓などは防音効果があると言えます。
でも、家を作るにあたって真空にできるものは複層ガラスの内側くらいなもの。そのほかの大部分は真空にできません。しかし、できればペアガラスよりもトリプルガラスにしたほうが防音効果は高いのでおすすめです。
重いものは空気の振動に対して動きにくいため、音を伝えにくいのです。防音のためにシングルガラスをペアガラスにしても効果がありません、という話がウェブ上に見かけることがありますが、単純にガラスが倍の重さになるだけで伝わりにくくなります。トリプルガラスなら3倍の重さになります。空気の振動がガラスに伝わり、それがその先に振動として伝わるわけですから、ガラスが重いほどその振動が弱まることは容易に想像できますね。
またガラスにはコーティングやフィルム貼付されているものがあり(いまはそれらが主流です)、素材が複数になると弱まる振幅が増えるため、防音効果が高まります。
そして窓のサッシ部分ということになりますが、引き違い窓は原理的に密閉できませんので、もっとも引き違い窓が防音性能が低いと言えます。FIX窓が最も音を伝えにくいです。寝室など静かなほうが良いという部屋の窓はFIXにしてしまうといいでしょう。それ以外の窓でもできれば滑り出し窓にすることでしっかりと防音することができます。
また窓そのものではなく窓の位置なんですが、壁よりも窓のほうが音を通しやすいので、1階の窓であれば腰高の窓にするだけで車の走行音などが聞こえにくくなります。またエアコン室外機のそばに窓を配置しない(逆ですね、窓のそばにエアコン室外機を配置しない)とか、すでに隣家があれば窓の位置が正面同士にならないようにするとか、位置取りだけでもずいぶん違ってきます。

雨音が聞こえない瓦屋根

屋根材として最近よく使われるガルバリウムなど金属系、ここしばらくよく使われているアスファルト系、そして瓦に代表される窯業系があります。
重さとしてはダントツで瓦が重いわけですが、これが雨音の遮音によく効きます。我が家では、瓦の代表的な銘柄である三州瓦を載せていますが、土砂降りの雨でも屋根からの雨音は耳を澄まさないと聞こえないほどです(これには屋根部分の断熱材の厚みも効果があると思われます)。
同じような時期に建った大手HMの注文住宅での体験ですが、金属系の屋根に当たる雨の音は、ぱらぱらと音がきこえました。
なぜ瓦屋根は音が聞こえにくいかというと、単純に瓦が重いからです。重いものは音を伝えにくい性質があります。密度が高く重いものは音をはねかえすので、瓦は防音にもってこいですね。今は洋風の外観にも使えるデザイン性の高い瓦もありますので、検討されてはいかがでしょうか。
余談ですが瓦は屋根材で最も耐久性が高いもののひとつです。ランニングコスト(メンテナンス性)ということでもおすすめです。

分厚いグラスウールの断熱材は断熱だけじゃない

グラスウールは断熱材として一般的なものです。安価で作業性がよく、不燃性で、断熱性能も高いです。そして、吸音材としての性能も高いのです。ウレタンよりもグラスウールのほうが吸音します。またウレタンは経年で収縮してしまうことがあり、隙間が生まれてしまうことがありますが、グラスウールは縮みませんので、性能を長く維持します。
高断熱を謳っている場合、壁のグラスウールを少なくとも100mm以上にしているのではないでしょうか。天井では150mm以上あるでしょう。壁で200mmを越えてくると、吸音の効果は一般の住宅では最大と言っていいでしょう。

音が聞こえにくい壁材とは

ガルバリウムなど金属系のものは、残念ですが音が伝わりやすいです。金属ですから音をはねかえす遮音の性能はあるのですが、薄いために質量が小さいので音を伝えやすいのです。
音を伝えにくいのはコンクリート(セメント)です。ALCと一般的に呼ばれる軽量コンクリート板、HMがオリジナルで作っているコンクリート系の壁材は防音によく効きます。窯業系と言われるものも素材は同じようなものです。最近はあまり採用されなくなりましたが、モルタル壁も防音性能は同じようなものです。
レンガやタイル貼りの外壁も、素材的に防音効果が高いのでおすすめです。
壁材が重くて厚いものは遮音効果が高くなります。多孔質なものも、グラスウールのように吸音しますので防音効果があります。

静かな室内はとても快適ですが、それ以上に音漏れの心配がなくなるのが嬉しい

窓際の日当たりのよいソファで読書をする、リビングルームで音楽を聴くなど、屋外からの音が邪魔になるシーンがあります。隣家のエアコンの室外機の音、エコキュートの音が深夜に気になって眠れないなどという話もよく聞きます。
しっかり防音してある家は、屋外からの音が気にならず、生活が快適になります。

そして防音のもうひとつの、とても大きなメリットが音が漏れないことです。
隣近所に気兼ねなく洗濯機を回したり音楽をかけたり、大きな声で会話をしたり(ものによりますが)楽器の練習をしたり。防音がしっかりしている家は外に音が漏れにくいということですので、家の中で少々大きな音を立てたところで外に聞こえる心配がありません。つまり、自分の生活音についてビクビクしなくていいということなんですね。特に矮小敷地であったり建物の配置で隣家と至近であったりする場合に、生活音が聞こえないかしらと心配になってしまうことがありますよね。防音がしっかりした家ならば心配ご無用です。のびのびと生活できます。

せっかく高気密高断熱な家にするならば、さらに防音に気を配って設計しよう

というわけで、ただ高気密高断熱であるだけでなく防音にも性能が高い家をつくりましょうという話でした。
ポイントは次の通り。
・窓は、防音が必要な部屋にはFIXか滑り出し窓を配置
・ペアガラスよりトリプルガラス
・窓の配置に気を付ける
・断熱材の厚みは、厚いほうが防音効果も高い
・密度の高い重い素材か、多孔質な素材の壁材にする
・瓦屋根は防音効果が最も高い
このくらいだけでも気を遣うだけで、室内が静かな家、物音を立てることに気兼ねしない家にすることができます。

注文住宅の設計というところでは、楽器を演奏する人くらいしか防音にまで細かく気を遣うということは無いのかなと思いますが、防音がしっかりした家は本当に住みごこちが良いので、これから家を建てる方はあたまの片隅にでも置いておいてくださいね。

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