サラバ! 物欲 番外編①
コラム:モデルとなった先輩の物欲の今。
今回の話で、モデルにした実際の先輩がいる。
彼はストーリーの先輩とは真逆で、物欲はまだまだ旺盛だ。
年齢は10個上なので、50歳すぎというところ。
先輩が自社品を次々に買う姿を見ると、もしかするとおかしいのは先輩ではなく、自分が普通ではなのでは?と疑問に思ってしまうくらいだ。
そんな先輩とのたわいのないエピソードをひとつ、紹介したい。
***
今日から社員向けのセールが開始。
社員は今まで以上にお得に買い物をすることができる。
いくら物欲がないとは言え、僕もこの時ぐらいは何か買おうかと考えていた。
「そうだ。ランニング用のウェストポーチが破れたから、買おうか……」
必要だから、買う。
ないから、買う。
壊れたから、使えなくなったから、買う。
それ以外は欲しくはならない。物欲はしぼんだままだ。
そんなことを考えながら、パソコンを眺めていると背中越しに、先輩から声を掛けられる。
「おつかれ、セールで何か買った? 」
「いや、始まったばかりですし、まだですよ。買おうかなと思ってるものはありますが」
「そっかあ。俺はこのシャツが欲しいんだけど……」
先輩が嬉しいそうにスマホで画像を見せてきた。
「おっ。カッコイイですね。だけど、なかなかの値段……」
「そうなんだよね、んで、この商品の横幅とかシルエットとかわかる? 大き目かな? 」
……ここまで気にしているとなると、完全に買う気だな。
店舗で言えば、試着室に入る前といったところか。
僕がもし店員なら一気にクロージングにかかるのだが……
当たり障りのない返事をしてみる。
「どうでしょうねえ。この前、お店に行ったときにスタッフから聞いたのは大き目って聞いてましたが」
「おお、そうか。じゃあLサイズにしようかな……色々ありがとう」
「いえいえ」
そう言うと、先輩はトコトコと自席へと戻っていった。
その軽い足取りは、物欲と書かれた風船が割れんばかりに膨らんでいることも関係しているのかもしれない。
僕はそんな下らないことを考えていた。
後日。昼休憩中に先輩と話す機会があった。
「結局、あのシャツと他のTシャツも買っちゃったよ」
満足げな顔をしながら嬉しそうに話す先輩。
この人にとって、買い物で物欲を満たすことは何より大切なことなんだろう。
「会社にとって、先輩はいいお客さんです。上顧客かもですね」
頭で計算してみる。
僕より10個上で新卒から会社にいるから、もう30年近く会社のモノを買っていることになる。すごい。
ちゃんと会社の売上に貢献しているのだ。
「ははっ。そうだね」
僕らは笑い合った。
それに引き換え僕は……まあ、いいか。
僕がシャツを買うのは、少し先になりそうだ。
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