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五月女 貢 合気道スクールズオブ植芝主宰


本物をつくり、本物になる
受け継ぐということは、真剣勝負です


「技の鍛練が原理を追求したものでないから、社会的な哲学としての発言がない。相手を尊敬する気持ちもない。やはり哲学が肉体化されなければだめ。それが修行です。それを一生かけてやる」

「私の役割は大先生に教えられたものを消化して、いかに自分が本物になり、次の世代の弟子を本物にするか、それしかない」
30年ぶりに来日した五月女貢師範。そこで見たものは、気品を失った若者の姿、人間不在の都市計画――驚きと落胆のなかで、消えることのない恩師・植芝盛平開祖への思い。厳しい日本の行く末にこそ、命の尊さ、「道」を伝え残す必要性があり、それを自らの使命とする、師範のあらたなる思いをうかがいました。


※所属や肩書きは、季刊『道』に取材当時(2006年4月28日)のものです。
 取材 編集部

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2006年コロラド合気道合宿での五月女師範

「できる合気道家は何が違うかと言えば、呼吸法です。
 呼吸法をいいかげんにやっている人は技もいいかげんです。」


気品を失った日本の若者

―― 30年ぶりの日本はいかがでしょうか。

 いちばん感じたのは、今の日本の若者に気品がないということ。歩き方が非常に悪い。気品があれば、歩き方にもあらわれる。気品がないということは誇りがない。なんで生きているのかわからない。プライドがないんだろうな。
 服装でもジュエリーでもなく、歩いてくる人間の姿、立ち居振る舞いでその人の価値がわかる。本当のファッションというのは、どんな貧しい服装でも気品がある。〝躾〟ということがなくなってしまった。
 日本人は、もともとファッションに対する美的感覚があった。今は流行に流され、コマーシャルに流される。それじゃだめなんです。
 日本を旅して歩いて気になるのが、男の服装。みんなダークカラーですね。ウィークエンドくらいもう少し自分の着たいものを着たらいい。旅行するのにネクタイにブラックスーツなんて柔軟性がない。もっと自己を表現したらいい。
 やっぱり男だって女だってかっこよくなきゃ。〝かっこいい〟ということはひとつの魅力でしょう? それは外面的なことじゃなく、自己表現としてのね。もっと楽しまなきゃ。侍というのはかっこいいものなんだ(笑)。

「今日は、はじめて」

―― 開祖(合気道開祖・植芝盛平)との出会いについてお聞かせください。

 いちばん最初に大先生にお会いしたのは、私が18歳、高校生の時でした。大先生は60代でした。昔の古ぼけた本部道場へ行って稽古をしたわけです。その道場の端で真っ白い髭をはやした大先生(合気道開祖・植芝盛平)がお弟子さんと話しをしていた。その頃は誰が大先生だか知りませんでした。私が頭を下げるより先に、大先生のほうから「よくいらっしゃいました」とおっしゃったのです。あとでそれが大先生だったとわかり、非常に感銘を受けました。背筋がピーンとするような、非常に強烈な「全てのものを捨ててもこの先生に習いたい」という気持ちになりました。ショックを受けたのです。


 人生いちばん素晴らしかったことは、大先生にお会いできたことですね。
 アメリカへ行っていろんな経験をしましたけれども、大先生から学んだことが非常に支えになった。人に言えないような経験もしました。それでも大先生に教えられたものが自分の生き方、アメリカでの生活の支えになりました。


 こんなことがありました。
 ある日、大先生が古い本部道場で朝稽古を教えていた時に、70歳ぐらいの老人が来ていたんですね。大先生が「おいくつですか?」と言うと、「70です」。すると大先生は「ああ若いですね」と。当時、大先生はもう80いくつでした。そしてその人が「合気道をやりたいのですが、もう歳だから……」と言いますと大先生は、「そんなことない、私は何十年か合気道をやってきているけれども、今日は、はじめて合気道をやる。あんたもはじめてなんだから一緒にやろう」とおっしゃったんです。そして呼吸法をやられた。あれは傍で見ていて、みごとなものでした。その70歳を越えた人は、感激して稽古着を買い、毎朝稽古を続けて1年半くらいで有段者になったんですよ。それはまさに、導きですね。そういうひとつの考え方、それは、技がどうこうよりも大先生から学んだ教えです。


 大先生は生活のなかでいろいろなことを教えてくれた。お茶を出したときに、先生が間違ったふりして、お茶をこぼした。私は慌てて拭いたのですが、パーンと後ろから尻を叩かれた。「何ごとだ、師匠にお尻を見せる馬鹿がおるか」と。たんに道場の稽古だけじゃなく、生活のなかでそういう機会をつくって教えてくれたんです。

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合気道開祖・植芝盛平翁の恒例の鏡開きにおける演武 
受けは五月女師範 1969年

自分が本物になり、本物の弟子をつくる

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