ロシア武術 システマと合気道
SYSTEMA
ここで紹介するロシア武術・システマは、日本の読者にはなじみのない武術ではあるが、近年北アメリカとカナダにおいて護身武術として武道界、格闘界で注目をあびている。現在のシステマ術技の原型は、元ロシア陸軍大佐のミカエル・リャブコ氏が10代の頃にスターリンの要人警護からシステマの元となる術技を学び、その後自身の特殊部隊の体験技術とあわせて完成された。
そのルーツは機密上明らかにされていない部分は多いが、その理念と術技に限りなく合気道に通ずる側面を見出した本誌編集長が、自ら体験取材をしてレポートしたものが本稿である。本年9月に行なわれるエキスポ2003への招待へつながる編集長のシステマ観を紹介する。
文:スタンレー・プラニン
※所属や肩書きは、季刊『合気ニュース』に掲載当時(2003年)のものです。
ナイフへの対処法を指導するウラジミール氏
システマとの出合い
ミカエルとウラジミールによって知られるようになったシステマを初めて目にしたのは、2001年4月に行なわれた、ある式典に出席した時である。式典後のパーティで、武道ビデオを見ようという人たちが居間に集まった。私を含め20人はいたと思う。いずれも数十年の武道経験豊かな連中である。その彼らが、いくつかの武術ビデオを見ていくうちに最後に注目したのが、あるロシア武術だった。それは彼らのほとんどが初めて目にするものであった。
そのテープには、ミカエルという人物がロシアで行なった外国の武術家向けのセミナーが収録されていた。
ミカエルは退役したばかりのロシア陸軍大佐で、背丈の低いたくましい体つきをしていた。その動きは信じ難いほど敏捷で、一般の合気道道場で見かけるものよりも、もっと“合気的”だった。ビデオのセミナー受講生はがっしりした体の、見るからに強そうな人たちだったが、ミカエルはやすやすと彼らを捌いていった。武術経験のない者にはそれは“やらせ”と写ったかもしれない。
我々はみな彼の技に魅了されてしまった。中には感嘆の声を上げる者もいた。私はと言えば、後日このシステマについて詳しく調べてみようとひそかに思ったのである。
2、3ヶ月後、ジェームス・ウィリアムから電話があった。彼はミカエルが行なったトロントでのシステマのセミナーから帰宅したところだった。電話口の彼は興奮していた。ジェームスは、“合気道ジャーナル”(オンライン・マガジン誌)の読者にはすでに知られているが、素手技および武器技にはかなり精通しており、めったなことでは驚かない。
その彼が、ミカエルとウラジミールを絶賛することしきりで、しまいには「あれほど短期間にすぐれた武術者を育てる指導法にこれまでお目にかかったことがない」とさえ言った。
それから間もなく、私はシステマをもっと詳しく見るためにミカエルとウラジミールが出演しているビデオテープを数本購入したが、その指導内容の豊富さと技の洗練度は実に素晴らしいものだった。私自身もシステマをやってみたいと思っただけではなく、合気道との交流稽古をやったら合気道家にとっても大いに勉強になると考えたのである。
ジェームスに「システマは2003年のアイキエキスポのテーマにぴったりだけど……」ともちかけたのは当然のことである。ジェームスはこの提案に賛同し、私の催促もあって、今年のエキスポの招待師範として参加をしてほしいとウラジミールに要請した。そしてウラジミールはシステマ外部からの招待を喜んだようで、我々の申し出を承諾した。
私はシステマをじかに見たいと思い、ウラジミールに直接会うためにトロントへ行くことをジェームスに提案した。ジェームスは(彼のシステマ熱はモスクワでミカエルと再び稽古したことで倍増していた)またもトロントへ行ける絶好のチャンスとばかりに期待に胸を膨らませているという風だった。
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