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新しい戦国大名の経済流通政策論の萌芽への期待

 普通、東国の戦国時代と言われれば、武田信玄と上杉謙信、あるいは伊達政宗のような、講談の世界の”戦国武将”戦国武将の話になってしまうのが通例。
 吉川弘文館「列島の戦国史」シリーズの丸島和洋著「東日本の動乱と戦国大名の発展」では、前半と後半に分かれ、前半は16世紀前半の尾張以東の戦国大名(領域権力)の攻防について書かれている。

 その叙述の中心となるのは、鎌倉府の「首長」たる各公方、関東管領家となる山内家を含む上杉氏各家のめまぐるしく変化する対立構造で、そこに地場勢力や伊勢氏=後北条氏という新興勢力がどう絡んでいったかという流れだ。確かに、織豊政権の「成立」には直接はつながらないが、この攻防が展開した空間に徳川政権が広がっていく訳であるから、近世との繋がりについて、今後研究が深くなっていってくれると良いのではないかと思う。

 後半は、戦国大名の統治についてのテーマごとの話しになっている。近時、この分野がテーマごとの専著が充実してきているので、通史的著作での展開の中で高い付加価値を提供するのは難しい所かも知れない。それでも、p189の伝馬制の説明では、面白いことが書かれていた。
 というのは、戦国大名の同盟国間では、伝馬の相互乗り入れがあったのだという。

「また同盟国間は相互乗り入れであったから、甲駿相三国同盟下において、武田・今川・北条三氏は、相手大名の本拠までの伝馬手形を発行できた。たとえば、武田氏は、今川領駿府や北条領小田原までの伝馬手形を出すことができたのである。」

 ここからは、戦国大名間の「同盟」が、実は、経済連携協定のような側面があったということを表しているのではなかろうか。こういう方面から、いわゆる楽市楽座論や関所論を含めた、領域権力としての戦国大名の流通経済政策という観点から、伝馬制を再度整理してくれるような研究を期待したいところ。

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