商品紹介動画

ユーザー視点の「本物らしさ」と、メーカー視点の「クオリティ」

先日、メーカー・ベンダーが、バイヤーに対して動画でできることについての記事を書きました。

商品を企画して、つくって、運んで、売るという流れのなかで、「この製品・機能はこういう人に売れる」と考えてメーカーが企画・製造をします。できあがったものは実店舗・ECなどを通じて販売されます。

販売促進のための各種制作物は、メーカーがテレビCMやポスターなどのメインビジュアルを制作し、小売が店頭に並べる売場・POP・チラシを制作するというのが、従来までの枠組みでした。

しかし最近、動画制作コストが低下してきたなか、小売が販促動画や商品説明動画を撮影するケースが見られるようになってきました。そこで、同じ製品で、メーカーがつくる動画と小売がつくる動画の違いが面白かったのと、
考えられるアイデアがあったので、ご紹介したいと思います。

対象となる製品はこちら。

360°自由に動くグライディング・メカにより座るだけで心地よいリズムが生まれ、クリエイティブな思考を活性化するというイスです。

まずメーカーであるコクヨ社が制作した動画を見てみましょう。

日本語版の動画は上記のアマゾンの商品詳細ページや下記の商品ページで視聴できます。

たいへんキレイで見やすく、クオリティが高いです。

一方こちらは京都にある防災用品・文具用品のECを行っているカスタネット社の動画。

クオリティという言葉の意味を、撮影・照明・編集技術の高低、演技の巧拙でとらえるなら、コクヨ社の方が圧倒的にクオリティが高いです。

では、カスタネット社の動画を「クオリティが低い」と一笑に付せるかというと、そんなことはありません。

メーカーが制作する動画は、当該製品の卸先が多様であればあるほど最大公約数的になりがちです。せっかく制作し製品ですから、あの機能もこの機能も伝えたい。そうすると必然的に動画の尺も長くなります。(尺を短くしなければならないテレビCMは別です)

通常、小売はメーカーが制作するこうした動画を、リアル店舗であればサイネージやタブレットで流し、ECサイトであれば商品購入ページに埋め込んでそのまま使います。しかし、小売には自店舗・自社サイトごとに異なる属性のユーザーがいるので、メーカーが制作した最大公約数的な動画が、それらのユーザーに影響を与えない(刺さらない)可能性があります。

そうなると、小売りが自分たちのユーザーを想定して、「うちのユーザーならこの機能が刺さるんじゃないか」といったことを考えて販促動画を制作した方が、影響を与える可能性が高くなります。

このとき、小売りが制作する動画は、メーカーが制作する動画のようなクオリティを追求する必要はありません。上述した意味でのクオリティを追求すればするほど制作コストが高くなります。また、ユーザーと店舗スタッフとの関係性ができていれば(ECサイトであれば顏出しでサイトに出ていたり、匿名でもブログなどで存在がユーザーに伝わっていれば)、ユーザーが求めるのは撮影や編集技術の高さよりも、「本物らしさ」になります。

この「本物らしさ」という言葉を、私はこれまで「ユーザーとの距離感」と表現してきたのですが、書籍『YouTubeの時代』でこの言葉を知りました。

「本物らしさ」という言葉について同書から引用します。

いま最も支持されているフォーマットやスタイルは、動画に親近感を抱かせることを可能にするものである。YouTubeで視聴されるエンタメ作品の特徴を表現するとき、業界ウォッチャーは「authenticity(本物らしさ)」という言葉を使った。
どうすれば「本物らしい」エンターテイメントがつくれるのか。多くのクリエイターたちが、それはクオリティの高さとは関係ないというだろう。ただそれは、プロダクションデザインが重要ではない、という意味ではない。私たちが惹きつけられた要因は、動画やチャンネルの制作者がアマチュアだったから生まれたのではなく、アマチュアたちが自然にもつ誠実さから生まれたのである。2001年を過ぎたころから、私たちは「本物であること」と「透明性」を以前よりも評価するようになった。

OK Goのダミアン・クラッシュはこう言っています。

ミュージックビデオをつくるとき、ライトやカメラ用台車の映り込みを指示する。完璧主義のカメラクルーには不評だが。「僕らが本当に求められていたのは、不信感を徹底的に払しょくすることだったと気づいたのです」
「それを達成することは、どんどん難しくなっています。デジタル技術の進化によって、現実とCGの境界線がますますぼやけているからです。人々に驚いてもらうために、『これは現実ですよ、これは現実ですよ』と、何度も念押ししなければなりません」
人々は友人やエンターテイナーから感じるものと同じ信憑性、「本物らしさ」を、大企業にも期待したのである。話しかければ、話しかけた相手からの反応を期待する。しかもそれは、偽物ではなく、正直なとのでなければならない。

小売がつくる動画は、こうした「本物らしさ」のある動画でよいと考えます。私(小売)が良く知っているあなた(ユーザー)のためにつくった動画は、小売とユーザーの関係性によってきっと内容が違うはずです。

そこで、どんな機能を動画化したら。どんな切口で紹介したら、こんな属性のユーザーによく売れたという情報をメーカーに還元してあげれば、メーカーは新製品を企画する参考にもなるかも知れません。

小売が動画を自主的に制作・配信することは、メーカーと小売の共創関係をつくるきっかけになるかも知れないと思いつつ、小売のみなさまには、ぜひ自社ならではの商品紹介動画を制作してみて頂ければと存じます。
どんな動画をつくれば良いかというご相談も、お気軽にお寄せください。

こうした考えや実践をまとめた書籍を刊行しました。

書籍の概要は下記の動画でも解説していますので、よろしければご覧ください。


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