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106 - 用語集①「ざっくりフューチャー」

但し、普通列車では停まったり動き出したりする度毎に眼をさまして寝付かれないと云う抗議もあるから、そう云う人にはこの汽車はおすゝめ出来ない。(『旅のいろいろ』)

106(*105はこちら

Chantrapas(シャントラパ/以下”C”): というわけで、用語集①。

Johnny Cash(ジョニー・キャッシュ/以下”JC”): うん。


doubles studio用語集①「ざっくりフューチャー」

C: 「ざっくりフューチャー」だね。

JC: はい。

C: ここから紐づいてるのが<ハリウッド><SF><宇宙><NASA><未来><Web3><ムーンショット>この辺りかな。

JC: ムーンショットまで入るのね。ざっくりフューチャーにムーンショットが入る……ざっくりじゃなくなって来てる。くくく。

C: 「ざっくりフューチャー的世界に行く」ってことね。だからいいの。

JC: そうね、目指すはそこ。そのくくりでミンナを飛ばしたい。

C: 「ざっくりフューチャー」って言った時に、読んでる人がパッとイメージ共有出来るといいよね。いきなり聞いても何のことかわかんないよ?

JC: ははははは。そうそう。

C: もうちょっと丁寧に話しておこう。さて。

JC: 「無いものを”有る”としてるビジョン」がざっくりフューチャー。その何が重要かと言うと、もはや牧歌性がある。郷愁がある、ということだね。

C: 懐かしい。レトロフューチャーの悪い面を含んでるのね。

JC: そう。その危うさというのを見事に利用してる。「使われる」んだよ。やっぱり便利で速くて。

C: スマートグラス……あぁ、スカウターのことね、みたいな。

JC: そうね。ものすごくそんな感じ。

C: 「新しいものはちょっと懐かしい」みたいな。

JC: 単純に新しいだけのものは無いに等しいからね。ただ単に新しいだけのものはもう崩壊してる。崩壊してなきゃいけない。そこに他の要因……例えば政治性とか科学とか、そういう「分野の権威」が働いているものの中で、「新しい」というのはまあ邪魔だから。

C: ふん。

JC: 結構簡単に除去されるよね。

C: 業界に入れてもらえない?

JC: そういうことだね。業界に入ってる中でそういう事を出来る人というのは一部の人で、それは約束されてそういう「役割」が回って来てるだけだから。今のところはね? そうじゃない文化というのがまず先行して進まない限りは、次のステージはまあちょっと創れないだろう……というのが自分の思考の前提だよね。

C: うん。

JC: それが100年くらいのターンで「今」起こってるわけだから……それはなかなか理解出来ない事ですよ。どゆこと、ってなって当然。

C: それは「ざっくりフューチャー」の説明になってるのか?

JC: すぐ脱線しちゃう。はははは!

C: 飛んだよね。

JC: 飛んだね……コーヒー淹れてる間に飛んだよね。

C: 懐かしさと郷愁。

JC: 絵を描いててもやっぱり思うもん。単純に新しいモノって意味が無いなぁと。

C: へえ。

JC: すごく刺激的だけど、やっぱり残らないというか。価値があるかどうか分からない。自分が描いてても思うね。

谷崎を読む

C: 病床で谷崎潤一郎を読んでたんだけど、

JC: 病床で。はははは。

C: 東洋思想的に芸術を考えると、「個」が乗り越えて行くんじゃなくて、先人の「域」に達するためにやる、みたいなことを書いていて。

JC: おんおん。

C: だから贋作でもいいしって。

JC: そうだよ。そう、贋作でもいい。パクっちゃ駄目だけどね。贋作でもやってみなよ、ということ。そしたら分かる事がいっぱいある。

C: ふん。

JC: パッて見て「この絵良いな」って、そのまんま書いてみようと思う。昔のデッサンみたいな感覚でね。そのままコピーしてやろう、くらいの。でも絶対それにはならない。ね?

C: うん。

JC: でも贋作士は贋作士じゃん。出来るんだよね。補修して再生するというのと、創造するというのは全然根本が違うから、そうだね……ゼロイチかもね。ははははは。

C: ゼロイチなの。ざっくりフューチャーはまあそうだな。

JC: 戻した。はははは。確かに……谷崎とかってそういう所ある。

C: あの人繊細な人だよね。

JC: めちゃくちゃ繊細。ナーバスすぎる。あんなの読んでたら病気が長引くよ。はははは!

C: 分かるなぁ、分かるなぁって。

JC: 病気の時はヘンリー・ミラーとか読んだ方がいいんだよ。ブコウスキーとか。

C: そうなのかな。よく合ったよ。

JC: そういう時に利用してみるのもいいかもね。確かに自分の体調にリンクしているものを掘り下げると、見えてなかったものが見えて来るのはあるね。

C: 今年最初のジョークだけど、

JC: おん。

C: 谷崎ジョーク。寝台車が好きで、どこでも寝られるからずっと寝てる、と。

JC: うんうん。

C: でもゴトンゴトン揺れてると寝られない人もいるだろうから、みんなには勧めないよって。

JC: うん。

C: だけど、寝台車が好きで好きで、それじゃないと寝られないから寝床の下にモーターを付けた人もいるよ、って。

JC: おぉん。はははは。

C: 可愛い話だなぁ。

JC: それね……モーターでは駄目だと思う。

C: ほん。

JC: 電車ってなんで座ってると眠くなるかと言うと、モーターの規則性と線路の不規則性が重なって、不規則なの。結局。

C: うん。

JC: だから1/fなの。それでアルファ波・シータ波が出てきて眠くなるのね。単純にモーターでは駄目だと思う。

C: なるほど、ゆらがないといけない。モーターだけだとざっくりトレイン。

JC: これは自分が考えるメドベッドの世界だね。ははは。そこで窓を開けていれば環境音がするから、モーターの「ゴンゴンゴン」と環境音が不規則を生み出して、眠くなる……かもしれない。はははは。

イオセリアーニの『四月』

C: イオセリアーニの『四月』という映画があるけど。

JC: うん。

C: ソビエト時代の作品。集合住宅がポコポコ建つでしょう。

JC: 社会主義・共産主義だね、まさに。

C: それに人々がボロ家から移って来る。芸術家は楽器と椅子と譜面台、あとベッドがあれば、くらいの。

JC: おぉん。

C: 窓を開け放ってみんな楽しくやってるの。ある部屋では一人で弾いて、ある部屋では小楽団が、ある部屋にはバレリーナが、ある部屋はずっと筋トレして、みたいな。

JC: うん。

C: で、そこに騒々しく、家具を持った人達が越して来る。ドカドカドカドカ。芸術家達は耳を塞いで窓を閉める。そこに若い夫婦もいるのね。彼らは何も持ってない。

JC: うん。

C: 言葉もいらない。ちょっと触れ合うだけで部屋の明かりが点いたり、蛇口から水が出たり……ふたりがいるだけで奇跡が起こる。そこに小男が立派な椅子を差し入れるのね。あれ管理人なのかな。

JC: うん。

C: 椅子があればテーブルがいる。テーブルがあればクロスとレースと花瓶と花がいる。この辺りまでは幸せだけど、ここからが悲劇で、

JC: あん。

C: 食事のテーブルが、食器棚が、クリスタルの器が……と物が増えていって、次は機械。扇風機とかのモーター音にまた芸術家たちは耳を塞ぐ。

JC: うんうん。

C: 今までしなかった音がする。ウーーーーンって。やめてくれ! って。モーター音の話があらすじ紹介になっちゃった。

JC: ははははは! 面白いね。

C: せっかくだから最後まで行くと、二人の奇跡が起こらなくなる。

JC: うん。

C: 優しく撫でただけで出た水も、蛇口をひねっても出ない。そうそう、部屋に物が増える度に扉の鍵が増えるのね。

JC: なるほどね。うぅん……。

C: 言葉の無い映画だけど、二人の喧嘩のシーンだけ言葉がある。

JC: シュールだね。

C: 字幕が無いんだけど、あれは作った言葉みたい。余計にシュールだなぁ。まあ言葉に意味はないけど場面は理解出来るよ。で、小男に椅子と鍵を返す。道を歩くご婦人がふと見上げると大きな棚が窓から落ちて来る……。

JC: ほおん。

C: 全部捨てたら、あの頃の二人に戻る、というお話。

JC: それよく検閲かかんなかったね。

C: 掛かって、後年出たんじゃないかな。

JC: そうだろうね。

C: で、その映画の質感がタルコフスキーの『ローラーとバイオリン』にそっくりだったのね?

JC: なるほど。

C: ちょっとデータを見てみたら、『四月』も卒業制作なんだって。

JC: 一緒なんだ。おんなじ学校だね。そうそう、あそこしかない。一個しかないはず。

C: 映画学校(VGIK)の共通の「感じ」ね。タルコフスキーもイオセリアーニも完全にもう作家性がある。短いから余計にはっきりとね。

JC: うん。

C: だけどその二つの作品の質感が一緒だったのが面白かったなぁ。こういうのを「教える」んだねって。そういう教育があるんだな、という。

JC: そういうこと、そういうこと。だから「社会主義を甘く見るな」っていつも言ってる。そこなのね。思想の括りじゃないんだよ。「芸術とは何か」という美意識の元で検閲があったと考えた方が、多分今観直すと理解し易いんじゃないかな。それくらい先行性があった。

C: そうなんだろうな。

JC: 今から20年くらい前に、ロシアがソ連で検閲掛かった作品を出して行こうとなったのね。あの頃からもう金を買い始めてたと思う。今思えば。はははは。あの辺で切り替わってた。圧倒的に違う美意識というのをロシアから出されたから……全然考えてる事が違うわ、って。

C: ランクが違った?

JC: 映画のクオリティ見たら分かる。それくらい凄かった。だから『ローラーとバイオリン』って、小品だけどめちゃくちゃ意味があるよ。ロシア文学的視覚効果だよね、あれこそまさに。

C: そこに並ぶなぁと。

JC: 並ぶんだろうね。観たい。鍵が増えていく……すごく重要だよね。

C: 「ざっくりフューチャー」は……。

JC: ははははは!

C: 芸術には敵わないよ? って結論でいいかな。

JC: そうね。非文化的思想ですよ。

C: ちなみに『四月』は卒制として作られたけど、ハネられて卒業までもう3年かかったみたい。これ駄目! って。どんだけカッコ良いのよ、ははは。

つづく


2023年1月22日 doubles studioにて録音

ダブルス・ストゥディオ
Johnny Cash (thinker/artist) & Chantrapas (designer/curator)
#doubles_studio_talk でトーク部分を一覧表示できます。

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