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86 - (天国でも)アメリカ映画とアメリカ文学

―大統領は?
―どっちの?
―ははは 本物の方だよ
(『ペリカン文書』)

86(*85はこちら

Chantrapas(シャントラパ/以下”C”): アメリカの話もなかなか楽しいじゃないの。

Johnny Cash(ジョニー・キャッシュ/以下”JC”): アメリカで育ってきたようなものだからね、我々は。

C: アメリカ的な文化背景と切り離せない。

JC: そうじゃない? 日本がアメリカナイズされていく歴史。アメリカナイズがアメリカ人も思ってない程の暴走を始め、グローバリズムへと向かう……。まさにその中に生きてたわけだからね。

C: 事実、うん。

JC: (本を差し出す)

C: ははははは。『ぼくが天国でもみたいアメリカ映画100: 好きで好きでたまらない名作名優』(淀川長治)だって。

JC: うぅん……順を追って観ていたような気がするな。全部は観てないけど。

C: これテキスト的な。どんだけ渋いのよ。

JC: ふふふ。古いやつはやっぱり……60年代くらいからだね。

C: (目次を見ながら)ほとんどわからない。50年代全然わかんないね。チャップリンくらいしか観てない。

JC: チャップリンはやっぱり凄かったね。衝撃だった。チャップリンの……『ライムライト』(1952年)とか『ペーパー・ムーン』(ピーター・ボグダノヴィッチ監督、1973年)とかが子供の頃に一番好きだった。

C: ふん。

JC: あんまり覚えてないけどね。『ライムライト』……好きだねぇ。

C: 好き。ほとんど全部好き。『街の灯』(1931年)とか。

JC: もちろん『街の灯』も良かったね……。それからバスター・キートンを知るよね。

C: あんまり観てない。

JC: そう。チャップリンがシナリオ・脚本ありきで、政治性もあってと。「ただの人じゃないんだな」と思っていたら、バスター・キートンの衝撃は……「本物のコメディアンってこういう人なんだ」という。

C: これから観ます。全部伸びしろ。ははは。(本を見ながら)わたしが観たの数えるくらいだね。アメリカで生きてない、あんまり。

JC: うん。

C: 「現代アメリカ」で生きてきたみたい。

JC: あぁ。

C: そうそう、映画の順番がもともとヨーロッパからだから。ヨーロッパの映画いっぱい観て、それから「アメリカも面白い!」って順番。例えばブラッド・ピットとか、普通に名前知ってるようなスターが出てくる映画の面白さが分かったのはずっと後。ウェス・アンダーソンとか観てからだね。

JC: うん。

C: 現代アメリカ映画からまた元ネタに遡って遡ってってしてると、やっぱりゴダール、トリュフォー、ヒッチコックとか出てくる。そういうの繰り返してる。で、今ヒッチコックがジャスト。

JC: 自分の場合はシンプルに父親の影響。

C: へえ。

JC: それでアメリカ映画を観てたから……西部劇から始まり、みたいな。

C: 西部劇ね……まだまともに観れない。

JC: 面白かったけどな、子供の時。

C: 現代の作品がどうというより、JCはきっと現代作家と原体験的なものを共有してるよね。ウェス・アンダーソンは好きじゃないの?

JC: 何の人?

C: 『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(2001年)『ダージリン急行』(2007年)とか。

JC: 知らない。

C: 『ライフ・アクアティック』(2004年)とか……ビル・マーレイがよく出てる。

JC: あぁ。観てない、抜けてるかもしれない。

C: わたしは『ファンタスティック Mr.FOX』(2009年)観て、「トリュフォー!」ってなってまたヨーロッパに。さっきの説明の通り。

JC: 観てないな。

C: ポール・トーマス・アンダーソンは?

JC: 知らない。

C: 何才?

JC: ははははは!

C: JC何才、今? 75くらいじゃないの?

JC: それ最近の映画だから。

C: 最近ではない。はははは。『マグノリア』(1999年)とか。2000年くらい。カエルの雨降ってくるやつ知らない?

JC: 一番アメリカ映画観てない時。

C: そう。

JC: 多分……ほとんどヨーロッパのばっかり。「駄目だ、アメリカ映画は!」って。はははは。

C: 何でなったの?

JC: 全体の流れだろうね。

C: タランティーノとか?

JC: タランティーノは面白かった。

C: はははは。

JC: 単純にヨーロッパの映画が……古い映画が気になり出して熱心に観てたんじゃないかな。その頃発表されたアメリカ映画はほとんど観てないと思う。

C: マイク・ミルズは?

JC: 知らない。

C: 回転ドアのようにJCと入れ替わった!

JC: そうじゃないかな。うん……。

C: ハル・ハートリーは?

JC: 観てない。わざと離れてたわけじゃなくて、全然違うのを探してた。当時のいわゆる渋谷系とかも「それぞれの才能」ね。わざわざ聴こうとは……あの人達のコレクションには興味あるけど。はははは!

C: ふん。

JC: あの人達のネタの方には興味あったけど、あの人達自身の面白味は……。

C: 面白いね。言ってる事すごい分かるけど、しかしアメリカ映画の落とし様がすごいね。

JC: すごかった。いらないってなった。

C: 『シンプルメン』(1992年)なんか観たら……それこそ『はなればなれに』(ジャン=リュック・ゴダール監督、1964年)とかね。ネタ元の方が面白いと言ったらあれだけど。どっちも好きだから。

JC: それが多かったのかな。すぐネタが見えて……。オマージュになってないというか、良い所が無くなってるのが見えてしまってしんどくなっていったんだろうね。

C: 先回りしてる。ははは。わたしは逆に遡っていったからね。『シンプルメン』観た後に『はなればなれに』なんかに「出会う」。それで「あぁ知ってる」って。観てないのに観てる……というので、ゴダール余計すごい、確認。別にそれで『シンプルメン』の評価が下がるとかはない。

JC: うんうん。

C: もっとでっかいんだ……って。

JC: そうね。そうそう。オリジナルの方がデカいっていうのがある。サンプリングみたいなのが面白いっていう事は百も承知してたけどね。メインにはならなかったというか、ズレてたんだと思う。「いつまでそんな古いのばっかり観てるの?」って。

C: はははは!

JC: 「まだ探す? 古いの……」とか言われて。でも……ドゥルーズとか読んでたらあんまりその時流行ってたようなものに時間は割けなかった。

C: 音楽やるもんね。

JC: バンドはそんなにもう忙しくなかったけど……夜な夜な機材いじって、録音とか。繁華街は行っても、全然音楽的には接点がない。それくらいの時。アメリカの新作映画とかはまったくチェックしてないし、小説家とかもその当時出てきた人なんかは全然知らない。

C: 誰がいるんだろう。

JC: 誰がいるんだろうね。そういう時期だったと思う。

C: アメリカ文学って、言ってみれば「全部最近」だから面白いよね。史実的に、最初の方も全部結構最近。

JC: うん、そうね。アメリカ文学の面白さってそこよね。移民……全員移民だから。移民独特の、特に戦後のね。三世とか。第一次大戦後にヨーロッパから来た人達が「アメリカ文学」としてアメリカを描いてる。面白いよね、「横から見てる」と言うか。

C: うん。

JC: 好きなアメリカ……だから多分「古い」。自分にとっては。

C: なんて言うんだっけ、一次大戦後の……ローリング・トゥエンティーズ?

JC: うん。

C: 20年代のイケイケの10年間。あの辺でしょう、フィッツジェラルドとか。

JC: フィッツジェラルドだね。フィッツジェラルドがその象徴。ジャズ・エイジ。

C: 「滅び」まで含めて。

JC: そう。そういう……禁酒法の回想録みないな部分が入ってる映画とかは好きでよく観てたけど、未来を示唆したり現代を鋭く見る目線、というような映画になってくると、自分の中ではあまりニーズがなかった。

C: ざっくりフューチャーには用がなかった。チープだった?

JC: そうね。多分そうだった。うん。

C: もういいわって。

JC: そうそうそう。

C: 90年代、2000年代のアメリカ文学って、パッと言われても全然出てこないね。うん……トマス・ピンチョンとか?

JC: そうなのかな。レイモンド・カーヴァー?

C: 80年代のイメージ。

JC: もっと最近……。

C: あ、ポール・オースターか。

JC: あぁ~。オースター読んでたね、どっかまでは。「柴田元幸さん」っていう信頼度もすごかったけど。うん、そんな入り方だったと思う。実際何書いてたっけ……。

C: はははは。

JC: あんまりピンと来ない。

C: ヒッチコックの「のぞき趣味」みたいなのもあるし、夢みたいな話。

JC: そうね、いっとき流行ってた物のリバイバル感はあった。なんだっけ、あの……「なんか」ばっかになるけど。ははは。

C: 記憶で話してるからね。

JC: 『アイズ・ワイド・シャット』(スタンリー・キューブリック監督、1999年)の原作(※『夢小説』アルトゥル・シュニッツラー作、1926年)とかの時代って結構独特のアメリカ文学みたいなのがあって、それを洗練したような感じで書いてるのがオースターだったような印象はある。

C: オースター苦手って言いそうで言ってないけど今言いそうでやっぱり言っちゃった。

JC: はははは。フロイト以後にバッと出てきた、心理学を使った小説の書き方。その辺を引きずってるよね。日本にもそれがどんどん入ってきて、テレビドラマとかでさえ……ストーリーを聞くだけでその臭いがする。

C: うん。

JC: 嫌悪感増すばっかりですよ! どんどんね! ははははは!

C: そうそう。オースターの話聞いててどんどんうつむき加減になってきてた。

JC: でしょう? 全部そう見えてくる。

C: 昼ドラでさえね。『霧に棲む悪魔』(2011年)とか熱心に見てたけど。当時深夜の仕事してたから、一晩寝ずにギリギリで見ると結構飛べる。わぁ、デヴィッド・リンチ! って。寝てないから余計に。

JC: はははは! そう、みんなそれになって、ドリーミングじゃなくなっていった。確かにああいうのを利用すると良い映画取れるんですよ。『マルホランド・ドライブ』(前述)だってそういう所がある。『青い夢の女』(ジャン=ジャック・ベネックス監督、2000年)とか。

C: それはわかんない。

JC: いいけど。まあ、ああいうのからちゃんと一線を引くゴダール……やっぱり凄いね。みんなちょっとやろうとする中……やっぱりやらないんだな。レベルが、ランクが違う。はははは! 好きな人はとことん好き!

C: ビクトル・エリセ好き?

JC: なんの人?

C: 『ミツバチのささやき』(1973年)とか。スペイン。

JC: 観てるのかな……。

C: 長編が1、2、3作かな? すごい少ない。大好き。

JC: 観出して知っててがっかりする時あるからな……「観てたんかい!」って。もうボケてるのかな。

C: 全部覚えて辞書みたいに出せる能力いらないからね。

JC: まったく求めてない。でも不思議な経験みたいなのって残ってるもんで、映画中毒みたいな時期って「何でもいい」ぐらいの時あるでしょう?

C: ある。

JC: 何回も観て、何回も「観た事あるわ」と思って、何回も「良いな」と思ったのが『桜桃の味』(1997年)。誰だっけあれ。

C: アッバス・キアロスタミ。

JC: それ。三回くらい立て続けに観て、よっぽど気に入ってるわって。ははははは。ああいうタッチの人が好き。

C: キアロスタミ良いよね。素晴らしい。大好き。

JC: 映画の良い部分が抽出されてるなぁ、と。あの人とかも好きかな。『青いパパイヤの香り』(1993年)とか、ベトナムの人。最近『ノルウェイの森』撮ってがっかりしたけど。

C: トラン・アン・ユン?

JC: かな。そんなの撮らんでもいいのに……。

C: 「『ノルウェイの森』=最近」のタイム感がヤバいよね。

JC: 最近。ははははは! 一大事だった。観てないのにけなしたらあれだけど、なんで撮ったの?って。

C: 最近……10年以上前じゃない?(※2010年作品でした)

JC: それぐらいは最近だよ。

C: それ天体のリズム、完全に。

JC: そうね。

C: 人類の歴史から見れば誤差の範囲?

JC: うん。それぐらいはね。

つづく


2022年10月13日 doubles studioにて録音

ダブルス・ストゥディオ
Johnny Cash (thinker/artist) & Chantrapas (designer/curator)
#doubles_studio_talk でトーク部分を一覧表示できます。

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