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SIOフィルハーモニックウインドオーケストラドリームコンサート

 先日、SIOフィルハーモニックウインドオーケストラドリームコンサートという演奏会にお声がけ頂き、コントラバス首席として出演させて頂きました。

 このコンサートは吹奏楽界の伝説ともいえる指揮者・汐澤安彦先生の元で学び、その後プロとして活動している演奏家が集まって一夜限りの演奏を行うという企画です。
 必然的に汐澤先生が教授を務める東京音楽大学の卒業生やプロオケのメンバーが中心となる訳ですが、今回も素晴らしいメンバーが集まっていました。

 第1回公演が開催されたのはずいぶん前だったでしょうか。その際には出演オファーがなくて、内心「なんで俺に声がかからないんだ!!」と憤慨していました。その後何度かお声がけ頂いた時はスケジュールNGで請けられず。今回は日本フィルの2つの公演の間にぴったり収まるという奇跡的なタイミングでお請け出来ましたが、ハードスケジュールになる覚悟をしてでもお請けしたのは、主宰の河野くんから「これが最後になると思います」と言われたからでした。汐澤先生の86歳という年齢を考えても仕方ないかもしれません。

 私と汐澤先生の関係は東京音楽大学に入学した直後、1992年から始まりました。実は音大入学時には「指揮者になりたい」という夢を持っていた私は、先生に話をして授業とは別にこっそり指揮のレッスンを見学させて貰ったり、教えて頂いたりしていました。
 汐澤先生が指導されていた吹奏楽の授業も、私が学生の頃コントラバスは定期演奏会直前のみの臨時出演扱いで、当時は3、4年生が中心だったのですが、私は吹奏楽強豪校から来たという事もあって1年生から4年間、汐澤先生の吹奏楽の授業を経験してきました。そのうち汐澤先生から直接、当時結成間もなかったシエナ・ウインドオーケストラのお仕事を頂いたりするようにもなったのです。
 ちなみにその後私は演奏事務課と直接交渉をして、コントラバスも吹奏楽の授業で単位を貰えるようにして頂きました。今はどうなっているか分かりませんが。
 結局コントラバスで頑張ろうと決心して指揮を学ぶ事は途中で止めたのですが、吹奏楽とオーケストラの授業で引き続き汐澤先生の指導は受けていました。

 汐澤先生の指導の厳しさは伝説となっており、東京音大の卒業生ならいくつもエピソードが出てくると思います。今の時代なら「厳し過ぎる」と批判されるところでしょうし、「音楽をやるのにプロもアマも関係ない」というスタンスでアマチュア相手でも泣かせてしまう指導のやり方については、正直私の周囲にいるプロ奏者からは賛否両論あるのも事実です。
 ただ、いわゆる世に取り上げられるような吹奏楽部の先生たちと違うのは、決して罵声を浴びせたり怒鳴り声をあげる事はしないということ。「お前」とは言わず「あなた」と呼ぶ事からも、僅かながら(笑)相手に配慮している事が伺えるのではないでしょうか。厳しい言葉の後にはフォローするような言葉もありますし、さりげないジョークも交えていました。緊張で固まった若い生徒たちはそこまで感じ取れない事のほうが多かったですし、勝手に脅えていつの間にか都市伝説みたいになっていった部分も多少はあると思います。
 私はもともとサッカー部で体育会系のノリに慣れていたこと、そして高校吹奏楽部の先生が物凄く怖かった事もあって、そうした恐怖による空気感にはあまり怖さを感じるタイプではなかったので、先生に「もっと大きく」と言われたらフォルテ3つくらいでやり返すという事もよくやっていたのですが、吹奏楽の定期演奏会の打ち上げで先生から「あなたみたいなタイプは嫌いじゃないです」と言われた事があって、喰らいついてくる生徒が好きなんだなと感じていたものです。
 話は逸れますが、先ほど書いた高校吹奏楽部の怖ろしい先生の名前は塩谷晋平先生。どうも僕は「SIO」の名がつく厳しい先生にご縁があるようです。

 その後大学を卒業してベルリンに留学するとなった時、先生にその旨を伝えると「私の娘がベルリンにいるから何かあったら連絡しなさい。私に手紙をくれても良いんだよ」と仰り、実際ベルリンから手紙を書いてみたら本当に励ましのお手紙を送って下さって驚いたものでした。鬼と仏が表裏一体と書いている人がいましたが、実にうまい表現ですね。

 今回のリハーサルは2日間で、初日は東京音楽大学のBスタジオ。今でこそ中目黒に立派なホールが出来た東京音大ですが、私が学生の頃はオーケストラも吹奏楽もこのスタジオでの授業でした。東京音大には室内楽の合わせなどでたまに顔を出す事はありましたが、Bスタジオに入ったのはおそらく卒業以来25年ぶりくらい。

東京音楽大学Bスタジオ

 一歩足を踏み入れた瞬間、何とも言えない懐かしさが込み上げてきました。もちろん当時と比べて変わったところもあって全く同じではないのですが、コントラバスの席に座って指揮台を見る角度やそこに広がる景色は間違いなくあの酸いも甘いも味わった青春時代そのもの。これだけでちょっとテンションが上がってしまいました。

 そして懐かしさと同時に衝撃を受けたのがそこで練習している人たちの音でした。

 私も佼成やシエナというプロの吹奏楽団でそれなりに長いこと演奏してきたので、吹奏楽の音圧が凄い事は良く知っているつもりでしたが、今回は普通の吹奏楽の倍くらいの人数がいます。何せホルン16人、テューバ5人、コントラバスも8人、フルートとファゴットは9人ずつなど、いわゆる中高吹奏楽部くらいの人数で、演奏しているのが全員プロなのですから、それはとんでもない音圧でした。

今回の出演メンバー表

 汐澤先生と演奏するのは卒業以来。会場に入ってこられた先生は杖をついており、昨年大病を患ったとの事で、だいぶ弱られているように感じましたが、それでも眼光は当時と変わらず鋭くて、リハーサルが始まるとどんどんエネルギーが戻っていく様子を見て、心の底から指導者であり音楽家なんだなと感じさせられました。
 「硬くソフトに」「あなたの中にしか答えは無いんです」「この人数でどれだけ小さな音が出せるか、それが大切」など今回も汐澤先生らしい指示が飛び交い、先生の名物「どか~んと」という言葉が出た時にはメンバーから「出た~!!」というような笑い声も起きました。

リハーサル初日の汐澤先生(河野彬Facebookより)

 先生の指示を聞きながら「あ~そうだった、こういう箇所はこう演奏して欲しいんだよね」と早めに察知出来るのは、学生時代の積み重ねのお陰かもしれません。
 
 リハーサル初日はとにかく凄まじい人数からくる音圧で耳がやられ、まずはバランスもタイミングもあったもんじゃないという状態でした。メインの「展覧会の絵」は管楽器の人たちに慣れていない人も多かったようで、「これ2日間で大丈夫かな」と不安になったのはここだけの話です。

SIOフィル2023 コントラバスセクション

 今回のコントラバスセクションは8名。汐澤安彦の吹奏楽でコントラバス8人は普通の事なのですが、今回も東京音大の卒業生を中心に集まりました。
 私は最初後ろで楽しく弾こうと思っていたので首席については前向きではなかったのですが、結局請けさせて頂く事になりました。形としては一番前で弾く事にはなりましたが、後ろからガンガン弾いてもらう事が一番大切なので、とにかく若い人たちが弾きやすい雰囲気作りをするようにだけ努めました。
 あまり細かい指示はせず最小限に留めるつもりでしたが、やるうちに拘りが出てきて音色やらタイミングやら煩かったかもしれません。積極的に弾いてくれたメンバーに感謝です。
  
 冒頭にも書きましたが、以前の私のように「なんで自分に声がかからなかったんだ」と思う人はきっとたくさんいるだろうと思ってもいたので、彼らの分まで背負って演奏しよう、そんな気持ちもありました。

 バーンズ/アルヴァマー序曲とホルスト/第2組曲は本来コントラバスは無いので、事前に確認したところ「全員でやりたい」という汐澤先生の意向と聞いたので、私がシエナでよく弾いていた頃に作った楽譜を持ち込みました。
 アルヴァマー序曲については私が好き過ぎて、以前作曲者のバーンズさんの指揮で演奏した際に「なんでコントラバスが無いんだ!」と話しかけ、「作曲した頃はコントラバスを入れる発想がなかった。好きに弾いていいよ」と言われているので、作曲者公認と言っても良いでしょう 笑
 その時バーンズさんは「日本でのアルヴァマーの演奏は早すぎる」と仰ってましたが、昨夜のアルヴァマーもまた見事な快速テンポでした 笑

 リハーサル2日目は杉並公会堂のグランサロン。フルオケが練習出来る会場ではあるのですが、グランサロンが狭く感じるというのは凄いですね。
 ここも良く響く場所で、さらにティンパニが本番と違う配置で逆サイドに行ってしまったりして、「こりゃ当日のゲネプロでいろいろ確認するしかないな」と思ってました。
 ただ、前日ぐちゃぐちゃだった曲が一気にまとまってきたのは、集まったメンバーの能力の高さの現れだったと思います。

 この2日目のリハーサル開始前に汐澤先生がわざわざ僕のところまで近づいて来られて「いったい何年ぶりだい?昔はいろいろ連れ回して悪かったね」とお声をかけて下さって、私を覚えてくれた事に驚きと喜びの感情で胸がいっぱいになりました。

 本番当日、東京芸術劇場でのゲネプロは全曲通して終わりだったのですが、ここで初めていろんなバランスやタイミングが明確になり、いくつかの問題点も出てきたので、ティンパニ武藤くんやテューバ宮西くんと少し話をして本番に向けて意志の統一を図りました。彼らは長年の付き合いとなる大学の後輩でもあり、ステージ上では本当に頼りになる存在です。

ティンパニ 武藤くん(読響)
テューバ 宮西くん(神奈川フィル)

 そして本番、なんと東京芸術劇場がほぼ満席。大入袋が出ました。

 東京音大の卒業生も多く来場していたからでしょうか、会場全体が汐澤先生に対する期待感と温かい空気に包まれていて、めちゃくちゃ演奏し易かったです。

 本番ではとにかく楽しく、そして「俺がテンポを決める!」くらいの開き直りで演奏させて頂きました。演奏者全員が細かいミスを気にするのではなく楽しんで、良い音で汐澤先生の音楽を表現するという一点に集中したこの日の演奏が、この日聴いていた中高生たちに響いてくれたらよいなあ。そこには吹奏楽、というより音楽の原点がありました。 
 ちなみに、私の息子の吹奏楽部からも数名聴きに来てくれたのですが、引率してくれた方から「帰りの電車で、みんなが今すぐ楽器を吹きたいと言ってました」という連絡がありました。最高の誉め言葉ですね。

とにかく吹奏楽の現場で良くご一緒する戦友、フルートのさやちゃん!!
コントラバスセクションの皆さんと。楽しいメンバーでした!

  そうそう、2曲目のエルザを演奏している時に、響きを堪能しながら客席をパッと見たら、2~3人涙を流している人が見えました。学生時代に汐澤先生の授業を経験した人たちかな、と思いながら演奏していましたが、それだけ想いを持った人があの空間に集まっていたんですね。

終演後はそこら中で記念写真を撮影するメンバーの姿があり、私はさりげなく汐澤先生との2ショットを狙ったのですが、お疲れかもしれないと思ってご遠慮させて頂きました。今となってはこの判断をとても後悔していますが。

 演奏会を終えて帰ろうとしたところで東京佼成ウインドオーケストラ正指揮者の大井剛史さんと遭遇。「鷲見さん!アルヴァマーでコントラバス8本、最高でした!!」という彼の一声目は、吹奏楽オタクならではの最高の褒め言葉として受け取りました。

 そして楽屋口を出たらそこには大挙して来てくれた大学時代の同級生や先輩そして後輩たち、さらに生徒さんが待ち受けていました。大学を卒業してから25年くらいになるのに、仲間たちの顔を見ると一瞬にして当時の記憶が蘇りますね。これもまたSIOフィルの魅力の一つかもしれません。

 最後になりますが、このコンサートを主宰しているフルート河野くん、本当にお疲れ様でした!!
 私なんか参加者70~80名のコントラバスコンテストの運営でも大変なのに、100人の演奏者、2000人の聴衆を動かす企画を実行する裏には大変な苦労があったと思います。彼無くしてこの演奏会は成り立ちません。改めてその行動力には感嘆するばかりです。

 そして汐澤安彦先生がこれからもお元気で音楽に没頭されるよう、さらにまた現場でご一緒出来るよう、心から願いつつ長文を締め括りたいと思います。
  

 
 
 
 
 


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