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早紀15

仕事前にテレビで観た今日のギャンブル運(金運)は☆1つ。それでもやりたい衝動を抑えられない。3万だけ入金する。ルーレットに黒・黒・赤で5000円マーチンをするつもりが全勝し、それでも188では等倍消化しなければ出金できないから勝った分15000円を黒にオールインして元鞘に戻る。やっぱり1円パチンコにしよう。職場の駅を自宅とは反対に2つ離れた店に私の好きなリアル鬼ごっこの甘がある。しかもよく回る。今日はそれで5000円遊んで客を2人ほど喰って帰ろう。了と付き合ってから久々に違う男に跨がる。そんな女で何が悪い…。

今日は良いストレス発散ができた。早紀の事で色々と滅入っていたのは確かだったうえ、了には私の求める男の荒々しさが無く物足りなさを感じていたからだ。でも別れようとは考えていない。細やかな幸せが私にとっては大きな幸せでもあるからだ。

夜10時、詩月はまだ帰宅していない。シャワーを浴びて「汚れ」を流す。そして私が作る晩ご飯は大抵いつもワンプレートメニューだが、今日はカセットコンロの準備をして鍋にする。夜遅くにスーパーに立ち寄り、すき焼き用の肉が安く買えたからだ。それにしても詩月の帰宅が遅い。嫌な予感がする…。全く連絡が無いのもおかしい…。夜11時半頃ひょっこり帰って来た。LINEを送っていたらしいが送信できてなかったらしい。この時間になった理由は詩月も久々に男とやりたかったらしく、仕事終わりにデリヘルのバイトを入れたからだった。文句は言えなかった…。

早紀の誘いについて話し合っておく必要がある。「絶対何か企んでるよね。会社まで行って取り戻したんだもん、早紀さんみたいな人なら逆恨みするでしょ?」詩月は数秒考えてから「あの場面ではまだ何をするかは考えてないですね。考える時間が無かったと思います」と答えた。それなら今頃どう復讐するか計画できているだろう。毒とまではいかなくても、睡眠薬の類を仕込まれるか、クローゼットの中にあの美貌に取り憑かれた親衛隊が潜んでいるか。それとも凶器で私たちを襲ってくるか。色々な手が考えられる…。そのいくつかに注意しておけばそこまで怖い話でもない。こちらもマダラと了の他に部屋の外に用心棒を待機させておけばいいのだから。まぁ、そこまではやり過ぎで考え過ぎだろう。それが今のストレスになっているのは間違いない。

「こちら側」の都合と相談し、詩月に早紀との日程を調整するよう促す。翌日、早紀が週末に詩月のアパートではなく、銀座のバルを指定してきた。私達はてっきりあのアパートを想定していたものだから、あれだけ悩んでいた心配が空回りしていたという事だ。薬を仕込まれる事も無ければ、親衛隊(笑)が潜んでいるわけでもない。凶器で襲ってくるわけでもない…。もしかしたら純粋に私達にご馳走してくれるだけかもしれない。詩月から奪った金だからそれでも安く済んでいる。

当日、私達4人は仕事を終えてマダラの車で指定された銀座のバルへと向かった。ワインバルで肉料理の看板が目立っていた。その看板には銀座には似つかわしくない文言が書いてある「飲めるやつだけ入ってこい」だ。決して広いとは言えない店内に先客は5人程確認できた。マダラも含めた4人で堂々と入る。奥のテーブル席に早紀の姿があった。手前のカウンターにマダラを残し、3人で早紀の待つテーブル席へと向かう。マダラの存在に早紀も気付いていた。「どうしてあの小汚い借金取りが来てるわけ?」と突っかかってきた。早紀はグラスの赤ワインを一気に飲み干す。「お姉ちゃん、あれだけじゃあの男が納得しないのよ。お姉ちゃんが元々私のお金だった20000ドルを持ってるって知っちゃってるからあと10000ドル返してもらえって煩いのよ」と答える詩月に「総量規制以上のお金を貸しておいてふざけんじゃないよ」と怒りを隠さない早紀を遠目からニヤニヤするマダラ…。

肉料理がテーブルに並び始めた。早速了がそれに手をつける。塩釜で作ったローストビーフが絶品のようだ。ホースラディッシュをつけながら美味しそうに頬張る了を横目に黙ったまま私達もそれに手をつけ始めた。思わず「美味しい」と言葉に出してしまったのは私だった。普段から安売りの惣菜、ワンプレートで済ます夕食、面倒な時はバタートーストオンリーの私には仕方のない事だった…。それを見た早紀が一瞬微笑んだ。「美樹さんのお口に合って良かったです。美樹さんには妹の面倒を見ていただいて本当に感謝してるんです」流石の私もカチンときた。

やけに長い名前の赤ワインを一口飲んで静かに出た私の言葉は「いいからサッサと100万だしな」だった。まだ酔ってもいないのに自分の口からこんな言葉が簡単に出るとは思ってもいなかった。暫く続く沈黙。早紀がテーブルの上に伏せて置いてあるスマホを手に取り、聞いた事もない名前のカジノを開きながら「ここ等倍賭けないと出金できないのよ」と沈黙を破って見せた画面には出金まであと20000ドルの表示。まさか、こういう意味でこの飲み会が修羅場になるとは思ってもみなかった。100万円出金させるには最低でも10000ドル近く賭けさせる必要がある。早紀はギャンブルは素人だ。早紀にやらせる訳にはいかない。マダラがのそのそと近づいてきて画面を確認する「姉ちゃん、とんでもない事しでかしてくれたな」とだけ言うとまたのそのそとカウンターの席に戻って行った。今にも泣き出しそうな詩月がマダラに駆け寄る「マダラさん助けて下さい!お願いします!助けて下さい!」しばらくマダラから離れない。了は面倒事はごめんなのか食事に夢中なフリをしている。

マダラが詩月を連れてテーブルまで歩いて来ると「バンカーに100ドル」とだけ言い放ち、了と席を交代した。

☆フィクションです。借りた金でギャンブルをするにしても、自分の限界を知っておこうね。とんでもない額借りてしまうと借りた側も貸した側も不幸になるから。


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