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氷河期のぬいぐるみ

ナキウサギ、というぬいぐるみのような小さな子が北海道に生息している。「氷河期の生き残り」と呼ばれる、何万年も地球に住み続けている生き物だ。

その子たちが最近いつもの場所に姿を見せない、と師匠が言う。

小さなナキウサギ達は、文字通りその鳴き声で居場所を確認するらしいのだが、いつもいた場所で何日ねばっても、声が聞こえないらしい。

氷河期からずっと、同じ環境や気候のもとで暮らしてきた小さき生き物たちが、昨今の急激な気候変動に瞬時に対応するのは難しいだろう。

その上、前代未聞の台風被害が2年前、北海道を襲った。岩場の巣穴に引っ込んでいたナキウサギたちは、寝床を襲う濁流になす術も無かったのではないか。そんな姿を想像し、言葉を失った。

温暖化の影響により、流氷が例年よりも早く決壊し、その欠片が海上に浮く。氷上に取り残されたシロクマが一頭、困惑した表情を浮かべながら陸を眺める。そんな映像で、人間は温暖化を視覚で感じ取り、初めてことの重大さに気づく。でも、そんな大きな事象の大分手前で、小さな声は誰に気付かれるでもなく、誰に訴えるでもなく、ひっそりと消えていく。

知らない間は視座が無い。だが、この視座を知ってしまったからには、知らなかった頃には戻れない。

だからと言って、わたしに何ができるわけではないのだけれど。


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