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16/365 【ガクブル】 何者でもない私たち: 小説と映画「何者」

2020年、感情noteを始めます。

心が震えたお芝居や映画や本、訪れた場所といったコト録も続けますが、それらは言わばハレの日。その合間にある「普通」の毎日を、も少し書いてみたいのです。でも、何でも良いってなると、ちょっぴりハードルが高いんです。

感情は毎日動くもの。喜怒哀楽のようにパッキリしたものもあるけれど、その隙間にある色とりどりのあわいも見つめてみる。良くも悪くも、なんかもやっとしたやつ。1日を振り返って、感情がなーんも沸かなかった、なんて日もあるかも知れません。それはそれで興味深い。

写真と140字だけの日もOK。ちゃんと整理できていなくてもOK。毎日書いていたら、何かが変わるかも知れないし、何も変わらないかも知れません。なーんも定かではありません。

でも、やってみたいをやってみる。できることなら、365日。意地っ張りな自分を見据えた上での、やってみようを始めます。

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何年か前、朝井リョウの小説「何者」を読んでいた。最後の数十ページで明かされる2つの事実に往復ビンタを食らわされ、ページをめくる指がぴたりと止まった。声にならない声も漏れていたかも知れない。

「今」が冷静に、冷酷なまでに切り取られていて、痛くて、辛くて、ぞっとしたのだ。

その後、映画が公開された。映画公開に合わせて本屋で平積みされていたのが目に入り、購入したのかも知れない。結果、本の内容が怖すぎて、映画館へは行かずじまいとなった。

その作品が、アマゾンPRIMEのラインアップに追加されていたので、ワインの力を借りて見た。

やはり、痛くて辛かった。だが、事実バラしのゾゾッと度合いは小説よりもやわらかだった。就活生へのカメラの眼差しも、小説より暖かく感じた。活字の方が冷酷さが際立つし、映画だと登場人物の行動が視覚情報として提示され、それがクッションとなっているからかも知れない。

就職活動中の学生たちの苦悩や焦り、仲間内で応援しあっているように見えて、その実お互いの成功を密かに妬んでいたり、そんな自分に嫌気がさしていたり、或いは「傍観者」を貫き「平気なフリ」をして傷つかないように幾重もの鎧を着てみたり。そんな学生たちの姿が5人(+1人)に凝縮されていた。

そんな彼らのやり取りと、ツイッターという140字に込められた思いと、その言外に滲み出るドロドロとした心情が、きつい。就職活動中ではない私が観て(読んで)こんなにノックアウトされるのだから、実際に就職活動中の人はどんな思いで読むのだろう。どんな思いで映画館を後にしたのだろう。

小説では主人公にひたすら感情を持っていかれたが、映画では、二階堂ふみ演じる「理香」にやられた。

She can’t make a fool of herself. 彼女は自分をさらけ出せない。

make a fool of oneselfという表現は、辞書等では「恥をかく」「物笑いの種になる」となっているが、こんな訳でも良いと思う。

本作の「理香」はまさにそうなのだ。自分が何者でもない状況が不安で不安でたまらなくて、やれ留学してただの、やれこんなボランティアをしていただのと列挙して、自分を大きく見せようとする。自分の弱さや脆さを認められない。それをさらけ出せない。

自分ではない自分で勝負をするから、彼女にはなかなか内定が出ない。

見ているこちらには、その姿が痛々しい。頑張れって言いたい。でも、彼女のプライドが、助けを求めさせない。だから、こちらも手を差し伸べられない。

悪意とまではいかないが、善意でもない何かが渦を巻いて、静かに、だが確実にこちらの精神を蝕む。

途中で寝ようと思ったのに、やはり最後まで観てしまった。就職活動中の人には絶対にオススメしないが、今のSNSの実態を、2012年の段階で切り取っていた朝井リョウが凄すぎる。

スピンオフ短編オムニバス小説「何様」も、読まねば。

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