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タクシー運転手 約束は海を越えて

「世界に伝えてください。ここで何が起こっているか」

インターネットが普及する前の1980年、世界の「今」を知る術は、テレビやラジオ、新聞などに限られていた。そこで流れるニュースの信憑性を確認する術は、さらに限られていた。そもそも、信憑性を「疑う」こと自体、難しかっただろう。

光州に戒厳令が敷かれ、そこからのニュースが一切入ってこない。かろうじて入手した現地の新聞の1面は、検閲で真っ白。現地で一体何が起きているのか、全く分からない。

ソウルから光州に向かう窓の外で、おじいさんは昨日と同じように田んぼを耕し、週末にはお釈迦様生誕のお祭りが開かれている。五月晴れの青々とした木々の間に、カラフルなぼんぼりが吊られ、露天商には小さな女の子用の、おリボンのついた靴をわちゃっと並べられている。

ほんの少し先では、軍による市民の大量殺害が10日に渡って繰り広げられているのに、そんな話に触れる人は、ほぼいない。

「軍部が市民に発砲したって噂よ。」

「違うよ。ニュースで言っていたじゃないか、あれは学生デモだ。アカや反社会集団の暴動だ。」

「え?そうなの?」

かろうじて漏れてきた真実の欠片は、「報道」をかざされ、あっけなく溶ける。

当たり前だと信じ込んでいた正義や平和が崩れた時、人はテレビのスーパーヒーローみたいに簡単に変われない。そんなはずはない、と狼狽え、これは夢にちがいないと目を背け、なんで自分が巻き込まれなきゃならんのだ、と自己保身に走る。

それでも、気付く瞬間がある。目の前で流れた血から目をそらすわけにはいかないことに。「逃げてください。ここはわたしたちに任せて、帰ってください」と笑顔で見送られ、いつもの日常に戻ってもなお、まぶたから消えない光景があることに。

唇を戦慄かせながら、「現実」に気付いてしまった自分から逃げなかったマンソプは、今、どうしているんだろう。ピーターの言葉が、ご本人にも届いていますように。

ソン・ガンホ、圧巻。

光州事件のハフポスト、発見。映画の中のシーンとの酷似に、帰宅後絶句。

https://www.huffingtonpost.jp/2015/05/19/kwangju-35th-aniv_n_7311100.html

シネマート新宿にて

http://klockworx-asia.com/taxi-driver/

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