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今も購入できるルネサンスからアンシャン・レジーム期の香水


 歴史本を読めば香水の話題が気になり、その香水の歴史を調べてしまう悲しき歴史好きの性(さが)……。

Acqua di Colonia 1533 Santa Maria Novella


 さて、世界最古の薬局の香水として現代も残っているこのコロン。使い心地はコロンというよりぐっと強めでロングラスティングなオーデパルファム。カテリーナ・デ・メディチが1533年にドメニコ会修道士に発注したもの。彼女がヴァロワ朝フランス王アンリ二世に嫁いだ際、彼女と共にフランス宮廷へ持ち込まれ、フランスでの香水文化が開花するきっかけとなった香り。
 500年近く前の香りは流行に左右されないシトラスフローラル。

Marescialla (1669, 1828)Santa Maria Novella

 1669年、フランス元帥夫人であったダウモント伯爵夫人(正式には公爵夫人)によって調香された香り。液体香水のレシピは残っておらず、1800年代にこの香りが再流行した際、ゲランもサンタ・マリア・ノヴェッラもマレッシャラのサシェ用のレシピを元に調香した。こちらもロングラスティングタイプ。
 スパイシーウッディから時間をかけて甘くなるオリエンタル香水についての詳細は、 歴史香水マレッシャラ をお読み頂きたい。

Eau de Nostradamus Aqua Mirabilis (1555,20) NICOLAS DE BARRY

 あまり知られていないが、ルネサンス期の医師や薬剤師は調香師も兼ねていた。だからカテリーナ・ド・メディチも修道会薬局に香水を注文したのだ。       現在もイタリアでは修道院薬局が常備薬的なハーブティーを販売し、素晴らしいオーデコロンを多数販売している。

 ルネサンス期の医師でもあったノストラダムスの自書”Traité des Fardements” (1555) に記したレシピを再現したものが現在も購入できる。スパイシーかつハーバルなフローラル香水のようだ、これは是非とも入手したいものだ。

Acqua del Conte Igor(AD1400‘s?) Ai Monasteri

 イゴール・カマロスキー伯爵( Igor Kamaroski )が15世紀に「肌をリフレッシュさせ、恋人をうっとりさせるような香水がほしい」と修道院薬局に制作を依頼した香り。人類最古のモテ香水だ。バニラ、ローズマリー、ラベンダーなどの香りがするらしい。ポーランドの古い伯爵家は元祖モテ香水をオーダーしたセレブである。


Acqua della Regina d' Ungheria, (AD1300‘s?) Ai Monasteri

 いわゆるハンガリアウォーター。1300年代、ハンガリー王妃エリザベート・ウォキェトクヴナに修道会より捧げられたローズマリーとラベンダーの香りは後にベルガモット、ジャスミン、アンバーなどが加えられた。現在も様々なレシピが残っている。
 本当にエリザベート王妃が使用したのかは曖昧らしいが、ルイ14世時代の宮廷で大流行した香りである記録は残る。国王の愛人であったマントノン夫人とセヴィリニエ夫人の愛用品だった。
 当時はリウマチにも効果があると信じられており、ルイ14世が足の痛みを感じた際に用いられていた。

Eau De Cologne, Farina1709

 断言する。人類初のオーデコロン、ケルンの水は4711ではない。イタリア人調香師Johann Maria Farinaによるファリナのケルン水はそれよりも早くドイツ・ケルンの地で1709年に作られた。

 レシピはレモン、オレンジ、タンジェリン、ベルガモット、ライム、グレープフルーツ、ネロリ、ラベンダー、ローズマリー、タイム、プチグレン、ジャスミン、タバコなど。

 この香りはマリア・テレジア、ルイ14世、ルイ15世、デュ・バリー夫人が愛用していた。香りは3時間ほどしか持続しないが、入浴習慣があまり無かったアンシャン・レジーム時代にアルコール成分が多く良い香りのケルン水を全身に浴びれば皮膚を清潔に保てたのだろう。近年ではビル・クリントンも愛用している。

Orangerie du Roy - Eau de toilette, HISTORIAE

 レモン、スイートオレンジ、ベルガモット、プチグレイン、バジル、砕いたミント、オレンジブロッサム、イランイラン、ハニーサックル、ラベンダー、タイム、パチョリ、ベチバー、オークモス、ムスク

 ルイ14世が生涯愛したオレンジフラワーをふんだんに使用した香りはHistoriaeにより再現されている(市場に多く出回るベルサイユ宮殿監修のバージョンは人工フルーツが過剰だ)。
 太陽王が愛した調香師Simon BARBEの香り。オレンジフラワーの香りが大好きだったルイ14世はオレンジフラワーウォーターを調合した洗濯物仕上げ香料で衣類を仕上げさせ、オレンジフラワーウォーターで香り付けをした氷菓デザートを好んで食べ肥満した。
 オレンジフラワー精油が香水に使用されるきっかけとなった調香でもある。


Parfum de Trianon (by Jean-Louis Fargeon)

 ローズ、オレンジブロッサム、プチグレン、ベルガモット、ラベンダー、レモン、ガルバナム、アイリス、ヴァイオレット、セダー、サンダルウッド、ナルシス、ユリ、チュベローズ、バニラ、セダー、アンバー、ムスク、ベンゾイン

 第二子出産後のマリー・アントワネットのために作られた花の精油を重ねたジャン・ルイ・ファジョンによるプチ・トリアノン離宮の自然な花と木のイメージ。以外に濃厚だがリラックスする香り。


EAU D'ANGE

 美白効果があるバススキンケア的な存在であったこの香りは、フレグランスミスト EAU D'ANGE Relaxingとして現代版が販売されている。

Eau de Mélisse

 メリッサ、アンジェリカ、クレソン、コリアンダー、フェンネル、レモン、カモミール、シナモンなど。恐らく当時の香りに一番近いと思われるオーデパルファムが販売されている。

 シャルル5世の時代であった1611年にカルメル会修道院において製造を開始。 ダミアン神父が最初に調合成分を考案。カルメル会がレシピを独占したためEau De Carmesと呼ばれた。フランス革命混乱期に特許を剥奪され、企業家に買収される。2016年無形文化財企業の認定ラベルを付与された。
 気付け薬的なリラックゼーションアイテムは現在もフランスで根付いている。植物性材料にこだわったオーデパルファムは2021年現在、4タイプが製造中。

 1611年から変わらぬレシピで作られるカルメル会の香水と気付け薬という歴史が深すぎるアイテムが出てきてしまったので、とりあえずこれにて一旦終了。日本に配送可能というのは嬉しい。良きロングセラー製品の香りに癒されて過ごしたいものだ。

 


【出典】

サンタ・マリア・ノヴェッラ公式ショッピングサイト

https://buy.smnovella.jp

NICOLAS DE BARRY

https://www.nicolasdebarry.com

アイ モナステリ

https://shopping.aimonasteri.jp/

Farina1709

https://farina1709.com/gb/

Historiae
https://www.historiae-secrets.com/fr/297-historiae-parfums/fr/

※Historiaeのアイテムは以下で一部販売中

https://www.perfumeriaquality.pl/eng-historiae/?short

https://fragrancesandart.com/en/brands/historiae/

EAU D'ANGE Relaxing Fragrance Mist for the Body
https://www.jeannepiaubert.com/gb/body/75-eau-d-ange-relaxing-fragrance-mist-for-the-body.html

Eau de Mélisse des Carmes Boyer

https://eaudemelisse.com/

Perfum Society LOUIS XIV: ‘THE SWEETEST-SMELLING KING OF ALL’

https://perfumesociety.org/history/louis-xiv-the-sweetest-smelling-king-of-all/

This is Versailles A Perfumer's Dream: Favourite Scents of Louis XVI's Court

http://thisisversaillesmadame.blogspot.com/2017/12/a-perfumers-dream-favourite-scents-of.html

Froth and Folly: Nobility and Perfumery at the Court of Versailles

https://blogs.getty.edu/iris/froth-and-folly-nobility-and-perfumery-at-the-court-of-versailles/

「マリー・アントワネットは何を食べていたのか ヴェルサイユの食卓と生活」ピエール=イヴ・ボルペール著 ダゴスタ吉村花子訳 原書房 2020年


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