今の時代の定性リサーチの必要性 〜組織・サービスレベルを上げるユーザビリティテスト〜

こんにちは、デザイナーの須藤です。

今回は、今の時代における定性リサーチの必要性と、その具体(ユーザビリティテスト)について書いてみました。

スタートアップやプロダクトの初期フェーズは、定性データの価値はより大きくなりますが、リソース不足による効率化や、成長に伴って数字だけ追うようになったり、AIの登場でユーザーと直接触れ合う機会が減ってしまうケースは実は結構ある気がしています。


スタートアップやプロダクトのPMF前における課題

創業メンバーはインタビューやインプットを繰り返し、顧客解像度が高いケースは多いはずですが、SPF(Solution Product Fit)前後になるとメンバーも増え、最低限のプロダクトはできています。
このフェーズから以下のような現象や課題が発生することは多いではないでしょうか。

  • 創業(初期)メンバー:比較的解像度が高い。 権限委譲を徐々に行うが、コミュニケーションコストがかかってしまう。

  • それ以降のメンバー:創業(初期)メンバーに比べると解像度が低い。 プロダクトはある程度出来ていることから、具体レベルが高いタスクが多くなり、俯瞰したサービス設計がしづらくなる。権限委譲がうまくいかない。

また成長に伴って、定量データや社内ドキュメントなどの情報もある程度は整い、人数も増え、AIなどでユーザーリサーチもそれっぽく出来てしまうことから、直接ユーザーと触れ合う機会が減り始めます(もちろん効率化で浮いたリソースを回すケースもあります)。
こうなると解像度が一定レベルまでは上がりますが、ユーザーとの直接性も下がるため、オーナーシップも持てるメンバーも増えていきません。比例してアイデアの質と量も下がります。
つまり、組織力が上がらないので、最終的なアウトプットとなるサービスレベルも上がりにくくなってしまいます。

サービスと組織レベルを上げる、定性リサーチの重要性

サービスと組織レベルを上げるには、定常的に直接ユーザーに触れることは解決策になりうるはずです。
数字やAIは楽ですが、あくまでアウトプットで、その前提のインプットが間違っていると方向性も間違いかねません。
ユーザーインタビューはもちろん有効ですが、プロダクトが最低限ある状態のSPFあたりのフェーズなら、 「探索」と「検証」どちらも可能なユーザビリティテストから始めることは、前述の課題の有効な解決策になる可能性があります。
また、ユーザビリティテストは半構造化インタビューのようにある程度具体レベルが高いので、定性リサーチ初心者でも取り組みやすいはずです。

  • ユーザーインタビュー:主に「探索」。アイデア出しに有効

  • ユーザビリティテスト:「探索」と「検証」。仮説ベースでの検証とアイデア出しにも有効。

※ユーザビリティテストって何だっけ?という場合は、他の記事がよくまとまっているので、御覧ください。

ユーザビリティテストは、準備(リクルートや機材の調達)が大変という印象がありますが、 実は低コスト(リモートの場合:クラウドワークスで30分1000円程)で機材も周りにあるもので実行可能です。
遠回りに見えて、解像度、組織力、オーナーシップ、サービスのレベル上がるので、実はコスパは良いです。

ここからは実践を通して得られた僕なりの学びをお伝えします。
具体的な実践方法に関しては、本などに詳しく書かれているので割愛します(最後に紹介します)

できればテストは対面で直接ユーザーと会う

制約やスピードとのトレードオフにはなりますが、対面が望ましいです。
リモートやアンケートでも勿論良いのですが、実際のユーザーと対峙し、会話をし、表情や手元の動きを自ら直接見ることで、解像度は大きく上がります。
定量データや資料を見たり、人伝で話を聞くのとも違います。
自分では当たり前なことも、ユーザーにとっては全く当たり前ではありません。
冒頭にも記載しましたが、最近はAIなどでリサーチも手軽に出来てしまうことから、分かった「つもり」になり、方向性を見誤る可能性があるので、しっかりと検証する必要はあると感じます。
自分への戒めですが、リモートやAIが浸透した今こそユーザーと直接対峙し、泥臭くやることが一番大切かつ価値が出せることかもしれません。

目的は結果をキレイに整理することではなく、課題を解決すること

僕自身、大規模な組織でのフローに慣れていた & 本などにはテスト結果のまとめ方と、改善する課題の優先度の付け方などがまとまっており、当初はそのやり方に則っていました。

改善する課題の優先度をつけるためのマトリクス

ユーザビリティテストを調べると、「5人でテストをすれば、ユーザビリティ問題の85%は解決する」という説をよく耳にします。
ですが、自分の経験からいうと、大抵3人ほどやれば同じような課題を発見できることは多いですし、少しスピード感に欠けるので、チームの雰囲気としてもダレてしまう可能性があります。
また、整理する作業が増え、意識しないと本来の目的である課題を見つけることから逸れてしまいます。
この時に有効なのがRITEメソッドです。

課題解決を目的とするRITEメソッド

RITEメソッドは、ユーザビリティテストの一種ですが、現代のアジャイルやリーンスタートアップの流れに伴いスタンダードになりつつあるようです。

  • 5人を待たずして、問題を発見したらすぐ直す

  • 高速反復で仮説検証をとにかく回す

  • 綺麗なテストが目的ではなく、課題解決を目的とする

↑1回目では失敗とエラーが多かったが、UI変更を細かく繰り返し、11〜16回で5人連続でエラーと失敗がなくなっている。[引用:UXリサーチの道具箱II ]

特にスタートアップなら、リクルーティングにおいても社内調整などすることも少なく、 ユーザーの声を直接聞く→改善のPDCAを高速で回せるため、参加者の解像度やオーナーシップが上がりやすいのでオススメです。
また、意思決定者などもテストに巻き込むと、ユーザー中心のフラットな議論なり、本来集中すべきユーザーの課題にさらに向き合いやすくなります。
ちなみに対面であっても、機材などの準備は以下のみで可能です。

  • 手元を中継するカメラ:スマホとスタンドでOK。スタンドは3000円程

  • 部屋を中継するカメラ:空いているデバイス(PC、スマホ)のカメラでOK

  • タスクを印刷した紙:印刷して見せた方が協力者の理解度がぐっと上がる

  • 部屋:あまり距離が近すぎないテーブル(近すぎると協力者にプレッシャーがかかってしまう)

実際にユーザビリティテストを行った部屋

テスト設計〜リクルーティング、モデレーターは積極的に行う

大変ですが、解像度が上がり、以下のように資産になるのでオススメです。自分が実際やってみて感じたメリットの一部を書いておきます。

テストの全体設計:プロダクトの仕様にも詳しくなる(半強制的に)
リクルーティング設計:サービスや課題のコアターゲットの解像度が上がる
タスク設計:ユーザーだったらどうするか?などイタコになろうとする
モデレーター:ユーザーと直接触れ合うので、思いがけない話から、アイデアの源泉になる。オーナーシップ度が上がる

もちろん役割は分けても良いですが、当日のモデレーター、アシスタント、システム役(オズの魔法使い)、見学者の役割を回すと、当事者意識も上がり、組織全体の解像度は上がりやすいと思います(パイロットテストで事前に役割も回しておくことをオススメします)

終わりに

繰り返しにはなりますが、リモートやAIが浸透した今こそユーザーと直接対峙し、泥臭くやることが一番大切かつ価値が出せることかもしれません。

これは最近定性リサーチに関わることが多くなり、身を持って体感しているのですが、自分がまだまだできていないので、効率化とのバランスを意識して積極的に取り入れていきたいと思っています。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

備考
ユーザビリティテストの詳細については都合により書けませんが、より具体的な実践方法に関してはお気軽にご連絡ください。

参考
非常に勉強になりました。ありがとうございます!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?