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2021 HIPHOPアルバムまとめ

昨年に比べ、2021年はある程度メインストリームにいるラッパー達が続々と新作を発表する年だった。
これはグラミー賞最優秀ラップアルバムノミネート作品にJ.Cole、Kanye、Drake、NAS、Tylerという顔ぶれが並ぶことからも分かる。(2021と比べずとも2020は渋かったが)

まず2021年で最も話題となったトピックは、Kanye WestとDrakeのアルバムがほぼ同時期にリリースされたことだろう。
Kanye Westの「DONDA」はアップルミュージックアルバムランキング152ヶ国で一位をとるほどのアルバムをリリースした。
しかし、セールス自体はそれほど伸びず、Drakeはもちろん、Pop Smoke、Lil baby、doja catなどからも大きく引き離された。
その理由としては、未だにキャンセルカルチャーが根強いのかもしれないし、そもそもアルバム全体としてカニエの中ではワーストレベルの出来であることも要因かもしれない。しかし、一曲一曲の完成度の高さ、目眩がするほどの客演(JAY-Zとの和解、Andre3000との楽曲、Dababyとマリリン・マンソンの起用など)も相まって、未だ世界的に影響を及ぼし続けていることは間違いない。個人的にはfivioが優勝。

それに対しDrakeの「Certified Lover Boy」は、ほとんど異常な程のアメリカ人気を誇り、Morgan Wallen、Olivia Rodrigoに次ぐ3位のセールスを記録している。
実際アルバムはよくまとまっており、特にイントロとアウトロはDrakeの全アルバムの中で一番の出来だった。「Champagne Poetry」は2021年のベストサンプリングビートだろう。
しかし、各ストリーミングサービスではクラブミュージックの新たなアンセムとなった「Knife Talk」、「Way 2 Sexy」が上位にある。このことからは基本的にもう歌詞は聞かない層がほとんなんだろうと思わされる。ビートとビートアプローチだけが重要視される時代に、こうした商業的なニュアンスを含めた楽曲と、メッセージ性を持った楽曲とをひとつのアルバムに込め、両方からの支持を集めるやり方をとるDrakeは、アーティスト性を保持したビジネスマンだと感じる。客演は、Kid Cudi、Lil Wayne、Rick Rossが良かった。

その他グラミー賞ノミネート作品としては、J.ColeとTylerはいい意味で前作と違ったコンセプトのアルバムをリリースした。
まず、J.coleの「The Off-Season」は「interlude」が先行配信され、その完成度の高さから大いに期待されたが、実際「interlude」が一番ヤバかったというオチではあった。しかし、J. Cole8作目にして初めてまともに客演を迎えたアルバムである今作は、全体として素晴らしい出来だった。少なくともKODよりは明らかに良いだろう。
また、LA LeakersフリースタイルもPipe DownのビートジャックもBasやWaleの客演も全部良かった(実際割とシングルで聞いてる)。

次に、Tyler, the Createrの「Call Me If You Get Lost」は前作「IGOR」とも「Flower Boy」とも大幅に違った、むしろ「Wolf」や「Goblin」に立ち返ったようなアルバムだった。
攻撃的なTylerを披露し、「IGOR」と別の位置で対をなすような完成度だった。Banditのリリース後、久しぶりにYoungboyが客演で輝くところを見れたのも良かった。

そしてなにより、Nasの「King's Disease II」は2021年通して圧倒的に良かった。
グラミー最優秀賞作品である前作に続く形で引き続きHit-Boyとのタッグで制作されたアルバムでありながら、前作をはるかに超える出来だった。前述の通りビートとビートアプローチで全てが決まるような現代シーンを圧倒する無骨なフロウに卓越したリリックをのせ、唯一ビートチョイスに難アリと囁かれるNasが、Hit-Boyのビートでラップするという無双状態だった。
Hit-BoyとのタッグはBig Seanを始め、Nipsey Hussle、Benny the Butcherなど様々だが、NasとHit-Boyを超えるタッグは現代シーンには存在しないだろう。「Illmatic」を超えるとまで言わないが、2020sでは一番のアルバムだった。
ちなみについ先日にもHit-BoyとのEP「magic」をリリースし、これもかなり良かった。
前回グラミー賞を取っていることを考慮せず、フラットな視点で評価するのであれば、今回も最優秀賞をとるべき。

その他良かった作品を考え、まず浮かぶのは、Little Simzの「Sometimes I Might Be Introvert」だろう。
多民族国家イギリスらしいミックスされた
音楽性と、社会問題と内省の統合を図りながら進むストーリーテリングなリリック、その上でKendrickお墨付きのスキルをもってラップする。なぜグラミー候補に入っていないのかが分からない。

次に浮かぶのは、Baby Keemの「The Melodic Blue」。
客演のKendrickがヤバいのは当然だが、Baby Keem自身もリリックやアルバムの進行において素晴らしかった。
元々浮遊感のあるメロディアスなビートで、ベイビーボイスで、お世辞にもリリカルとはいえないラップをするイメージだったが、今回はリリックも良い。「Durag activity」の内容の薄さがアルバムで浮いてるくらいだった。今作で類似のラッパーから二歩三歩抜きんでた特異な存在になったと思う。
「Family Tie」は確実に2021年ベストMVだろう。

2021年の大きなトピックとしてGriselda Recordsの躍進もあげられる。
Westside Gunn「Hitler Wears Hermes 8: Sincerely, Adolf/Side B」、Benny the Butcher「The Plugs I Met 2」、Conway the Machine「La Maquina」、Mach-Hommy「Pray For Haiti」「Balens Cho (Hot Candles)」Boldy James「Bo Jackson」これら全て統一性を持ちながらそれぞれがユニークかつ完成されたアルバムであり、かつこのレベルのアルバムを毎年2、3枚出せるのはヤバすぎる。その上で精力的に客演に参加し、シーンに存在感を放っている。
もう5倍は聞かれてもいいが、今のところいずれも実力に伴わない知名度と人気である。Westside Gunnを始めとする主要な3人は余裕でMigosを超える現代シーン最高峰のトリオだろう。
Mach-Hommyに関しても、他にない独創性を持ち、特に「Balens Cho (Hot Candles)」はハイチ系の民族性をフルに落とし込んだ唯一無二の作品だった。 しかし、Spotify月間リスナーが60万弱とあまりに不当な扱いを受けている。
Boldy James「Bo Jackson」はThe Alchemistがプロデュースしているため音楽性に関してはいわずもがな。純粋に音楽が好きならハマると思う。ちなみに先日The Alchemistがプロデュースのアルバムをもう一枚出している。これも名作。しかし月間リスナー50万前後。
ただ、全員ある程度アングラであってこその音楽性と声とリリックとフロウなので、そのジレンマもある。

その他かなり良かったアルバムは、
・Amine「TWOPOINTFIVE」
前作「limbo」よりもサイケで明るくメロディアス路線。前作同様リリックもハッとするようなものがある。個人的にはもう少しラップして欲しかったが、何度も聞くうちにハマる。
・Armand Hammer and The Alchemist「Haram」
The Alchemistも天才的に多作だと分かる。また、詩的なリリックを好むArmand Hammerは当然Earl Sweatshirtと親和性抜群。サウンドはもちろん、リリックに着目すべき。

その他良かったのは、BROCKHAMPTON (サウンドに注目しがちだが、普通にラップも上手い。前半後半で雰囲気がガラッと変わる。客演のチョイスも絶妙)、Genesis Owusu(Hiphopかどうかは微妙なところだが、めちゃくちゃ良かった。聞いてたらセンスマンぶれる)、YG&Mozzy(メロディアスフロウがはまってる。継続的にタッグを組んで欲しい)、Russ(客演神)、Styles P(かっけえ)、Maxo Kream(かっけえ)、Vince Staples(リリックもサウンドも唯一無二。Vince史上一番好き)、Isaiah Rashad(期待以上。唯一無二)、Snoop Dogg(あまり話題になっていないが客演神)、DJ Khaled(異常な客演。なによりNasとJAY-Zのタッグがヤバい。アウトロもかっこいい)、Polo G(まぁ良かった)、Rod Wave(歌上手い。よく聴くと暗いリリックで良い)、IDK(RIP MF DOOM。睡眠用instrumentalもついててお得。)、DMX(今まであまり聞いてこなかったが、かっこいい)、Kenny Mason(過小評価されてると思う。ラップも上手いし雰囲気も独特)、Blu(最高にリリカル。過小評価)、 G Herbo(PTSDの方が良かったが、まぁ良かった。2021のG Herboはどちらかというとアルバムより客演でかましてた印象) Yungeen Ace(思ってたより良かった。全体的にメロウな雰囲気)、Slowthai(独創的。コミカルなキャラクターに反する切ないリリックも魅力)等(作品名略)

しかし、あまり良くなかったものも沢山ある。有名どころでは、Pop Smoke(前作が良すぎた)、Rick Ross(客演の時はいいのに…)、Roddy Ricch(期待が大きすぎた)、Ski Mask The Slump God(フロウもリリックもサウンドもガッカリ)、JPEGMAFIA(個人的にはナシ。かなり評価されてるので好きな人もいると思う。HAZARD DUTY PAY!がofflineなのが悔やまれる)、Injury Reserve(前作より込み入ったサウンド。もっとラップして欲しい。評価は高い) 、Lil Nas X(シングルがいいだけに…)、Meek Mill(イントロはめちゃくちゃいい)、Wale(中途半端)、YNW Melly(良さがでてない)、Key Glock(メンフィスの良さが分からない。評価は高い)、Nardo Wick(ジャケットと作品名の雰囲気だけ好き)、Don Toliver(客演も微妙)、NBA YoungBoy(期待はしてなかった)、Chief Keef(フロウパクリすぎ)、Migos(期待はしてなかった)、Young Thug(シングルとしてはいい曲もある)、Trippie Redd(シングルとしてはいい曲もある)、Juice WRLD (シングルとしては…)、Doja Cat(JIDを呼んでくれてありがとう)、Nikki Minaj (Seeing Greenは良かった)、42Dugg(うーん…)、Tony Lanez(少しくらいラップしてくれても良かった。悪くはないけどこれならSilk Sonicを聞く)、YBN Nahmir(繰り返し聞きはしない)、2KBABY(聞き心地は良い。けどアルバムとしては微妙)、Lil Loaded(謎の音質。一度もいいと思ったことがない)等(作品名略)

ともかく2021年は間違いなくHiphop yearだった。今年はKendrickのアルバムに期待する。
直近ではCordeaとEarl Sweatshirtのアルバムがリリースされる予定であり、他に今年リリースされそうな有名どころはEminem、JID、Denzel Curry、Travis Scott、ASAP Rocky、21Savage等。Griseldaからそれぞれ一枚は出るだろう。個人的にChance The Rapperも頑張って欲しい。

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