【31】新時代の組織論「自己進化型組織」とは(1)
先行きが不透明で、予測することが困難な状態、いわゆる「VUCA*」と呼ばれる現在の世界。
その世界を生き抜くためには、柔軟に変化、進化することが、これまで以上に求められています。
30年、40年前は、「少なくとも向こう5年くらいは今と似たような状況が続くだろう」という予測のもとに動くことは、そこまでリスクを伴うことではありませんでした。
が、今、我々が生きている世界は、5年後も同じような状況が続いている可能性はかなり低いと言わざるをえません。
それはつまり、現状維持のまま、変化・進化しないでいると、急速に変わっていく世界から取りこぼされるリスクが高いということでもあります。
このことは個人についても言えますが、より切迫した危機感を持っているのは企業ではないでしょうか。
実際、「変化に対応できるチーム」「進化できるチーム」というように、多くの企業経営者、チームリーダーたちの目下の関心は、「変化」「進化」というキーワードにあるように思います。
ただ、「変化」「進化」が大事だということは見えていても、どうしたらそれを実現できるのか、やり方についてはまだ多くの人が模索しているようです。
さて、ここで、動作学のレンズの出番です。
組織づくりと動作学
各論に入る前に、なぜ動作学が組織づくりにかかわるのか、改めて解説したいと思います。
そもそも動作学とは何か?
動作学をどういう言葉で説明するかは、状況に合わせて変えているのですが、今回の場合、「動作学とは、生物学や脳科学、神経学など、生命(いのち)の仕組みを知るために発展したサイエンスをベースにして、有機体というものを考える学問である」と説明するのがわかりやすいでしょう。
「有機体」というのは、言い換えると「生命のシステム」のこと。
人間は生命のある細胞などが集まってできた生命のシステムですし、組織や社会は個々の人間という生命のシステムが集まってできたもう一段大きな生命のシステムです。
つまり、個人と企業、社会は、規模の大きさこそ異なるけれど、生命のシステムという点では相似しているので、サイエンスをベースに生命のシステムについて考える動作学という学問は、個人だけでなく、企業も社会も対象にしているんですね。
そして、そのように生命のシステムとして「変化」「進化」を考えると、組織が強く進化するためには何が重要かも自ずと見えてくるわけです。
結論から言うと、動作学的に、組織が強く進化するために必要なのは、組織が自ら進化していく状態を作ること。
動作学では、そのように自らが進化していく状態にある組織を「自己進化型組織」と呼び、そのような自己進化型組織を作ることこそが、VUCAの世界で通用する強い組織を作るカギであると考えています。
自己進化型組織に必要なこと
では、「自己進化型組織」は、どうやったら作れるのでしょうか?
そこを説明するにあたって、まずクリアにしておきたいのが、進化とは何か、ということです。
進化といえば有名なのはチャールズ・ダーウィンの進化論。
そのダーウィンの進化論をわかりやすく公式化すると、以下のように示すことができます:
進化=多様性×選択圧
この公式を、たとえば「なぜキリンの首は長く進化したか」に当てはめてみましょう。
キリンの首は、背の高い木の葉を食べるために伸びたのではなくて、もともとは首の長いキリン、首の短いキリン、首の長さがほどほどのキリンと、さまざまな首の長さのキリンがいました。いろんな首の長さのキリンがいた、それがつまり多様性です。
しかし、キリンが生きている場所は、首が長い方が生き伸びやすい環境にあったため、多様なキリンの中でも首が長いキリンが生き残るという選択が繰り返されました。その結果、キリンという種全体としては首が長い生き物として進化を遂げることになったわけです。このように環境などの影響によって生き残るか否かの選択を余儀なくされることが選択圧です。
この公式は、もちろん組織にも当てはめることができます。
つまり、組織の進化もまた、多様性と選択圧の掛け合わせによって起こるんですね。
ということは、組織が進化するために必要なのは、その組織内の多様性が豊かな状態、かつ選択圧が高い状態にあること。
言い換えると、多様性が豊かで、かつ選択圧が高い状態を作れば、組織は自ずと強く進化していくということで、それこそが「自己進化型組織」なんです。
ところが、一般に、ほとんどの企業が、多様性は低く、選択圧は高いという状態にあって、それが組織の変化、進化がうまく進まない理由の一つになっています。
では、組織において多様性を豊かに、かつ選択圧も高い状態にするには一体何をすればいいのでしょうか? 次回は自己進化型組織に必要な基本要素を、より具体的にお伝えしたいと思います。
*VUCA(ヴーカ):Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った言葉