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生成AIがもたらすHRの未来〜海外サービスの動向から考える〜

こんにちは、株式会社Algomaticの高橋と申します。
2022年末からChatGPTをはじめとした生成AI技術が爆発的に普及しはじめ、徐々にビジネスの現場にも普及しています。

私は、生成AIと最も相性のよいドメインの1つがHR(Human Resource: 人事をはじめとした人的資源に関わる業務)であると考えております。本記事では、生成AI技術がどのようにHRの未来を形作るのか、具体的な事例を交えて探っていきます。

【この記事には何が書いてある?】
採用・従業員支援・労務領域での生成AIサービスの実事例
・今後の日本国内での、HR領域における生成AI技術の普及可能性

【この記事の想定読者】
・HR領域での技術活用に興味がある人事担当者の方・人事責任者の方
・事業領域を検討されているAIプロダクト開発者の方

「人」に関わる業務に生成AIはどう導入されるか?

ChatGPTが2022年12月にサービスを提供開始してから、全世界で1億ユーザーを達成するまでに要した期間はわずか2か月です。
電話が1億ユーザーに到達するまでは75年、携帯電話が1億人に使われるまでは16年、インターネットの場合は7年を要したことを考えると、私たちはこれまでの人類史にないスピードで、時代の変化を経験しています

では、こういった生成AIの技術は、HR領域においては今後どのように導入されていくのでしょうか?

冒頭書いた通り、生成AI技術はHR領域と非常に親和性が高いです。
これまでの人事業務の現場では、面接での評価結果、転職前後の業務経歴、社内規則文書などの、テーブルに整理されていない非構造化データ」が取り扱われることが多く、従来の技術ではこれらのデータの活用には限界がありました。

構造化データと非構造化データ(出典:TOPPAN様のWEBサイトからお借りしております)

しかし、大規模言語モデルをはじめとした生成AI技術を用いることで、こうした非構造化データも効率的に処理することができるようになりました。
「データベースに格納されていない大量の非構造化データ」が眠っているHR領域には、生成AI技術を使うことでイノベーションが起きるポテンシャルがあるのです。

HRと一口にいっても、その業務範囲は広範です。そこで本noteでは、とくに生成AI導入が活発に行われている「採用」「従業員支援」「労務」の3つの領域にフォーカスを絞り、海外の生成AI活用事例を紹介します。

1. 採用×生成AI

AI RecruiTas(中国)

COVID-19の流行により、中国の採用市場ではオンライン面接の需要が急増しました。これにより、Jinyu IntelligenceのAI RecruiTasのようなAI面接サービスの普及が加速しています。

AI RecruiTasの画面

AI RecruiTasはSaaS型のAI面接官サービスで、人間の介入なしにAIが候補者の回答を分析し面接を全自動で進行します。主に1次面接での利用が想定されており、面接結果をもとに「この候補者の強み」「次回の(人間の)面接でより深堀りすべきポイント」が詳細にレポーティングされます。

AI RecruiTasのレポート画面


中国においては、新卒採用領域でのAI面接官サービスが伸びており、参入するプレイヤーも多く、激戦の様相となっています。
中国の新卒採用は完全に"買い手市場"です。中国教育省の統計では2022年の大学卒業生は前年比167万人増の1076万人と、1000万人の大台を突破している一方、企業側では採用計画の縮小が相次いでいます。
そのため、1つの求人に対して数多くの大学新卒者が殺到するような状況であり、これがAIによる面接効率化を後押ししていると考えられます。

一方、日本においては大卒求人倍率は1.75倍であり、マクロに見れば"売り手市場"となっています。そのため、求職者サイドにとってメリットある仕組みでない限り、AI面接官の普及には一定時間がかかるのではないかと考えています。


Moonhub(米国)

Moonhub人材採用のプロセスを自動化する「AIリクルーター」を開発している企業です。Google Venturesや、OpenAIに出資したKhosla Venturesも注目しているスタートアップです。

Moonhubは、LinkedInやGitHub、SNSや学術論文をはじめとしたWeb上のデータをもとに10億人以上にものぼる巨大な求職者データベースを構築しています。このデータをもとに、企業からのリクエストに応じて自動で候補者を表示し、面談設定まですべて自動で行うという生成AIネイティブなプロダクトを開発しています。

自律的に動作し自動的に業務をこなすAIは「AIエージェント」と呼ばれます。Moonhubが目指すのは「ベイエリアにいるアイビーリーグ出身者2名と面談を設定して」と入力するだけで、連絡から面談日程調整をワンストップで代行してくれるような、人材版AIエージェントの開発です。

なお、Moonhubの類似サービスとしてKula AISeek Outなどのサービスも存在しています。米国ではLinkedinなどのプラットフォーム上で求職者情報がオープンになっており、こういったAIリクルーターツールが生まれやすい土壌があります。一方日本においては、ビズリーチなどのクローズドなダイレクトリクルーティングプラットフォームが主流であり、MoonhubやKula AIのようなサービスの上陸には、もう少し時間を要するのではないでしょうか。


2.従業員支援×生成AI

Eightfold AI(米国)

Eightfold AIは、AIを活用したスキル開発や従業員支援を推進する企業です。Eightfold AIは「Talent Intelligence Platform」を称しており、従業員のスキルアップや再教育、適切な再配置をサポートしています。

出典:https://www.youtube.com/watch?v=DwajEW_8k4s

従業員の活躍支援においては、社員ひとりひとりの特性を把握し、そのスキルをうまく活かすことが重要です。しかし、特に大企業では非常に優秀な人材も埋もれやすく、ポテンシャルを発揮する機会を逃しているケースも少なくありません。Eightfold AIはあえて例えるならば、社内版ビズリーチのようなイメージで、従業員のスキルを活用したプロジェクトのスタッフィングや社内の人材再配置を支援するプロダクトです。

特徴的なのは、従業員情報の分析機能です。従業員のプロフィールをもとに「この従業員はデータ分析が得意」「マーケティングに強みがある」などのスキルを自動的に抽出し、社内タレント発掘を容易にします。


Beamery(英国)

Beameryは「TalentGPT」というキャリア開発プラットフォームを提供する企業です。
さきほどのEightfold AIを対話型に発展させたようなプロダクトで、従業員向けのチャット型のツールを提供しています。
各従業員のプロフィールデータをもとに「◯◯さんには、どんな教育機会がある?」「■■さんの経歴サマリを出力して」などの分析が行えるAIアシスタントが搭載されています。いわば、各社専属のAIキャリアアドバイザーとでも呼ぶことができます。

Beameryは、偏見(Bias)の問題を解消するための取り組みを積極的に行っているの特徴です。
人種経験年数出身校などのバイアスがAIキャリアアドバイザーの出力に含まれないことを、第三者監査によって評価しています。
人間の意識的・無意識的なバイアスの影響を除外し、よりフラットにキャリア開発を支援できるという点で、AIによる従業員支援には非常に大きなポテンシャルがあります。


3.労務×生成AI

Central(米国)

労務領域では、シリコンバレーの名門アクセラレータープログラムのY Combinatorでも、労務×生成AI領域にチャレンジするスタートアップが数多く採択されています。

Centralは、AI技術を活用して労務関連業務を自動化・効率化することを目指したスタートアップです。

  • 給与計算や税金計算や、50州の米国従業員と200か国以上の契約社員に対応した給与支払い業務を代行

  • 政府への各種登録や申請、書類提出を自動作成

といった機能を兼ね備えています。

出典:https://getcentralhq.com/

ポイントは、これらの機能がSlack経由で、英語などの自然言語で利用できるという点です。企業の労務担当者は、あたかもリモートワーカーに仕事を依頼するかのように、AIエージェントに労務関連業務をお願いすることができます。

デモ画面(出典:https://getcentralhq.com/)


4. 日本では今後AIツールはどう普及する?

では、ここまで紹介してきたような生成AI×HRサービスは、今後の日本ではどう普及するのでしょうか?
その予測をするうえ重要となる「法規制動向」「自動化vs強化」「心理的な抵抗感」の3つの観点を最後に取り上げます。

各国の法規制動向

ヨーロッパの生成AI×HR領域のプロダクトをリサーチしていると、労務管理従業員オンボーディングのAIツールが積極的に開発されている一方、採用系のサービスが少ないことに気づきます。
理由としては、2024年5月に成立した欧州委員会(EC)のAI規制法の影響が大きいものと考えられます。
AI規制法では、AI活用のユースケースごとにリスクの高さを分類していますが、「採用の自動化や応募者の選別」のユースケースが高リスクとして分類されています。これにより、EU圏内においては、採用向けのAIサービスを提供するのに一定のハードルがあるというのが現状です。

日本国内においても、生成AIに関連したルール整備が着々と進んでいます。経産省・総務省が中心となって取りまとめたAI事業者ガイドラインによると、透明性や適正利用が担保されていれば、HR領域でも他領域と変わらず生成AI技術を利用することが可能とされています。

出典:https://www.meti.go.jp/press/2024/04/20240419004/20240419004.html

今後、国内での方針が変わる可能性はありますが、基本的には法的な拘束力を持つハードローでは規制せず、ガイドラインというソフトローで活用促進リスク緩和のバランスをとっていく方向で議論がなされています。
労働力減少という避けられないトレンドがある日本だからこそ、諸外国とはまた異なった方向性でイノベーションの促進が図られています。

その業務は、AIによって自動化されるべき?人間を強化すべき?

Googleが2019年に発表したAIプロダクト向けのガイドラインPeople + AI Guidebookによれば、AIサービスには「自動化」「強化」の2つの方向性があるとされています。

AIに命令さえすれば、業務を1から10まで"よしなに"やってくれるのが「自動化」の方向性です。
一方、あくまでAIは人間の補助ツールであり、人間の判断力や実行力を最大まで引き出す"お手伝い"をするのが「強化」の方向性です。

ポイントは、HRに関わる各種業務に対して、私たちは自動化/強化のどちらを望んでいるのかという位置づけです。
機械主体に業務を進めてもらい「自動化」した方が人間は嬉しいのか。人間主体であくまで「強化」したほうが人間は嬉しいのか。答えはケースバイケースで、業務内容や従業員規模にも依ります。

私個人としては以下のような方向性になるのではないかと予測しています。

  • 担当者の負荷が高い「労務」は今後、自動化が積極的に進む

  • タレントマネジメントなどの「従業員支援」は、あくまで人が主体となり、人間の判断を強化する方向でAIが導入される

  • 「採用」については、AIエージェントによる自動化が進む一方、最終的な意思決定は人間に委ねられる。そのため自動化と強化が混在する


「心理的な抵抗感」とどう付き合うか?

生成AIは新しい技術で、利用に対して様々な面から懸念を感じる方も少なくありません。これは無理のないことだと考えます。
ただし、こういった「心理的な抵抗感」は過去の技術革新のタイミングでも同様に発生していました。例えば、コンピュータやワープロが普及する以前には「真心を込めて手書きした紙の履歴書」が当然であり、「機械で印刷した履歴書」はとんでもないマナー違反という見方が主流だったのではないでしょうか。
ところが、現在ではその見方は完全に逆転しています。つまり、私たちが「人間らしい」と感じる心理的な基準は、技術の進化とともに変化しつづけます。
そういった意味で、新しい技術に対して懸念を感じるのは、むしろ健全な反応だと言えます。HRという「人」に真正面から関わる領域だからこそ、AI技術がどう受け入れられていくかについては、今後も注視が必要です。

まとめ

  • 海外においては、HR領域では特に「採用」「従業員支援」「労務」のユースケースで生成AIが利活用が進む

  • 日本では事業社ガイドラインをベースに、イノベーションの促進とリスク緩和のバランスを取る形で活用が進むと予測される

  • 「労務」領域では自動化が積極的に進むと考えられ、タレントマネジメントなどの「従業員支援」は、あくまで人が主体となり、人間の判断を強化する方向でAIが導入される。「採用」については自動化と強化が混在する

  • AI導入ハードルの一つである「心理的な抵抗感」については、今後の社会動向をチェックする必要がある


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記事は以上です。最後までお読みいただきありがとうございました。


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