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避けられぬ懐疑〈二世代〉

※お祓い済みです。

我々は心霊確認班。
この世には様々な事情が交錯し、パラレルワールドのような事象が巻き起こる。
ただ一つ言えるのは、我々の世界はたった一つだけということ。
ある男子中学生が話をもちかけてきたのだが。

◎けじめ

 ここにある一通のビデオ。
本当は送りたくなかった。
心霊現象なんて信じていないし大嫌い。
ドキュメンタリーだとか何だとか言って、他人の不幸で飯を食ってる奴らなんて相手したくない。

でも、自分には心当たりがある。
人間の醜い正体を。

昔、俺は有名人と言われた家系の子だった。
家族は好きだ。
何でも習い事をさせてくれるし、欲しいものも自分で手に入れる習慣も学べさせてもらった。
世間で言う金持ちに分類される俺は、仲間にも慕われていて嬉しかった。

一緒に配達員をやっていた子が居た。
その子の家庭は俺と違って貧困で片親。
そう彼は笑って言っていた。
俺は道楽のつもりで配達員をやりたかったわけではなくて、報酬を受け取る喜びを味わいたかっただけだったのに彼は真剣に仕事をしていた。

疲れて休んでいる俺に、彼は缶コーヒーをくれた。

礼人れいとって、誰だっけ?あの・・・有名人の息子だったんだな。」

仕事で忙しくて話してなかったけどバレたようだ。

「中学生なのになんでこんな仕事してるんだ?
もっと他に売り方あるはずだろ?」

確かにそうだ。
でも俺は俺の人生を自分の力で切り拓きたかった。
けど、そんな本音は言えない。
もしかしたら嫉妬される。
俺はしばらく黙った。

「ま、働く理由なんて金が欲しい以外ないよな。」

彼、町角まちかは物分かりがいい子だった。
そんな彼と撮った写真。
コンビニでプリントアウトしたっけ。

そこにも映っていた。
謎の影と霊。

「避けられぬ懐疑」

そこでは不可解な心霊、超常現象を検証してくれるそうだ。
だが検証映像では分からない解決をしていると聞いた。
心霊ドキュメンタリーといっても人間で出来る範囲は限られる。

浦泉奈冨安うらいずなとみやす
彼はDVDではカメラを撮ったり、説得ばかりだが、高校生で心霊ドキュメンタリーの研究生かつある格闘家の弟だった。
俺は別の才能かつ二世タレントとしての扱いだったが、中学生の俺としては普通ではない環境で戦う道を選ぶ彼が好きだった。
何故あんなバイトをしているのだろう?
といっても俺も配達員を中学生でやってるんだ。
対して不思議じゃない。
けど、この映像を渡すのは気が引けた。
あの浦泉奈選手が自由に行動しているところを。

俺も自由だけど、実際は二世タレントとして出ているからか個人情報のちょっとした流出や悪そうな同級生や心配にたかられることもあった。
町角はそんな俺をいつも助けてくれた。 シャドーボクシングをよくやる不思議な人で喧嘩もよく負ける。
けど、けして諦めないから俺も習い事で習得した体術で応戦した。

そんな思い出を収益目当てではなく、解析の為に浦泉奈選手の元へ手渡すのだ。
それと浦泉奈選手は地上波にも出たのだがそれがあるからか避けられぬ懐疑はヤラセ事務所と揶揄されている。
だが送られた映像の数は全てが嘘には思えなかった。
俺には霊感があるのかもしれない。
正確に言えば第六感だ。

あの写真やかつてのホームビデオにあった謎の霊を送り、事務所でインタビューする手筈だった。

◎門番の選定


俺は事務所に行くと一人の男子高校生が立っていた。
見れば分かる。
そして、邪気と聖気が混じった不気味な雰囲気を感じる。
何処かで見た可能性はあるが、あれは地下格闘技?
いや、あの人は一体。

「何見てる?インタビューの打ち合わせなら早くあがれ。」

その人には報連相がしっかり身についているのかすぐに案内された。
そこにはモニターで数多くの心霊ビデオをチェックしている浦泉奈冨安の姿があった。

「ええ?君って確かスポーツ選手の息子の!今は将来の為にフェードアウトしたって聞いたけど?」

「浦泉奈冨安さん。現役格闘家のあなたに解明してほしいことがあってきました。」

すると門番が俺を掴む。

「ほぉ。俺は興味なかったがよく見れば有名人顔だ。
中学生にしては芳醇な香水に質の良い食べ物。
宛ら原型師の秘蔵品に近い。」

物で例えるな。
なんだかこの人は好きになれない。

「君が投稿者なんだね。」

俺は全てを説明した。
浦泉奈選手は演出補という誰かに連絡を取っていた。

「今回は俺がカメラを持つよ。」

「野谷さんはなんて?」

「たまには取材いってこいとさ。」

浦泉奈選手は俺を連れて現場を案内させた。

試合で見る彼と演出系の仕事をしている彼。

二世の俺と特別な家庭の選手。
俺は一体何を期待している?

◎逃れられない重圧

現場では町角が腕を腫らして立っていた。

「うっ・・・礼人・・・約束時間どうりだな。
しかしなんであの浦泉奈の弟がいる?」

事情を説明した。
一緒に撮った写真に不可解なものが写り込んでいたこと。
浦泉奈が居たから送ったこと。
そして今後の心配。

「じゃあ、俺の腕の腫れってそれか?」

「町角が事故っただけじゃないか?」

しかし町角は昨日まで寝込んでいたそうだ。
この現場に誘い出されたのもその原因究明の為。
だが不可解だ。

「浦泉奈か。金持ち同士気があうのか?」

いつにもまして町角は怒っていた。
二世とか気にしないと思っていたのに。

浦泉奈選手は「応急処置だが」と救急箱と除霊セットを用意していた。

「霊現象は本物だ。だがその傷は霊が起こした事故の怪我。
最低限のお祓いと処置はする。」

あの浦泉奈選手がテキパキと町角に施す。

手際よく綺麗に終わった。

町角はあまり気持ち良さそうではなかった。

「あの霊、呼んだの嫌がらせだったのに投稿するなんてな。」

町角は礼人に当たる。

「仕事手伝ってくれたのは嬉しかったけど、お前の行動全部金や地位、名誉の為だと思うと白ける。」

「違う!町角!違うんだ!」

うおおおおおおお

謎の呻き声が聞こえる?
浦泉奈が「あの霊のお出ましか。」

あの霊が立ちはだかってきた。
浦泉奈は礼人に

「昔、バラエティで演武を披露していたよな?
俺は現役の格闘家、君は習い事でしっかり鍛えている。
あの霊は君の
友の怨みの具象化だ。
つまり殴っても罪には問われない!」

浦泉奈選手が何故、アップを始めたのか。
町角は驚いていた。

そして俺達はヒーロー番組よりは泥臭い形で霊を撃退した。

町角は舌打ちをしながら帰った。

「やっぱり、有名人の息子が中学生で仕事体験なんて嫌われて当然なのかな。」

すると浦泉奈選手は「心配すんなって」と言ってくれた。

「除霊は成功した。上手くいくとは思わなかったけど、そのぉこの嫉妬加減ならさっきの彼の皮肉でどこかすれ違いがあったのかもしれないだけ。
避けて通れないよ。
人間関係は複雑だから。」

浦泉奈選手の苦悩が垣間見えた。
俺も、こんなことでじっとしていられない。
そうして映像は浦泉奈選手達に預けた。

艶衰視点えんすいしてん

「有名人か。俺みたいに隠さないといけないタイプはこのスタッフに頼むしかないか。」

艶衰はバラエティや格闘大会で礼人を倒しているのだが話題にならなかったことを嬉しがっていた。

「今後、あの子を引き入れてみるか。」

艶衰もボディガードをしてばかりじゃいられなくなったようだ。

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