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避けられぬ懐疑〈廃トレ〉

※お祓い済みです。

我々は心霊確認班。
この世には様々な事情が交錯し、パラレルワールドのような事象が巻き起こる。
ただ一つ言えるのは、我々の世界はたった一つだけということ。

◎廃トレ

 私達心霊確認班が揃う。
演出補の男性、小口。
演出補の女性、野谷。

他にも何名かスタッフがいるのだがリモートワークで編集業務やフェイク確認をしている為、出動班でもある二人が現場で仕事をしている。
会話は特に無し。

今回の依頼はプロ格闘家の男子高校生が、ある映像を送ってきた上に投稿報酬と秘密裏に解明して欲しいと頼んできたのだった。

差出人、出所不明のVHSを見つけたある男子高校生。
人見知りで話したくない会員がジムにいたのでトレーニング場所を廃墟にしていたという。

「ジムに通いだしたのは僕の方が長くて、別に物怖じしなくてよかったんですけどその日は会員の方とその場でトレーニングするのはやめようかなあって考えてたんですよ。」

演出補、小口は彼へインタビューを続ける。

「廃墟でトレーニングされたというのは人通りを避ける為ですか?」

男子高校生は続けた。

「廃墟といってもSNS時代ですから、人が多いので今となってはあんまり意味はないんですけどその廃墟でトレーニングをしていたのは理由がありまして。」

どうやらそこにはもう一人、別のジムの男子高校生が練習をしているらしく何故か彼の周りには誰も寄り付かないらしい。

「最初は怖いなあ、怖いなあって思ってたんですけど彼も人見知りらしくて誤解を招かれる事が多いって自分で言ってたので。
あ、なんかこの子ほっとけねえなあと思って一緒に練習していたんですよね。」

小口は内心、それじゃ廃墟でのトレーニング意味がないんじゃ?と突っ込もうとした。

そこで女性演出補、野谷がインタビューを続ける。

「ということは、二人でトレーニングされていても誰も近づく事がなかったと?」

男子高校生は何かまずかったのか動揺していた。

「い、いやあ僕達みたいなタイプだと怖がられることも多いですし、最初は数が増えれば誰かに話しかけられるかもって二人で話していたんですけど独特の空間が出来ていたのか廃墟トレーニングが捗りましたね。」

小口はVHSの出所を聞く。

男子高校生が廃墟で練習中、好奇心が芽生えて廃墟の奥へ入ることを決意した。
そこで何か映像が撮れれば、収益化も夢じゃないと思ったらしい。
そこで散乱している机に何故かVHSが置いてあり、手にしたらしいのだが。

「VHSなんて自分達の時代では化石みたいな代物なんですよ。だから報酬は二人で折半ということにして、知り合いにVHSも観れる機材が置いてある子がいたので頼んだらあの映像があったわけです。」

スタッフは映像を確認している。
小口は何度も映像がフェイクではないか確認をした。

「どうしてアカウントを作って投稿せず、私達の手を借りようと?」

自分達が支払う額は広告量よりも安い。
彼らの技術ならそのまま拡散するだけで知名度は上がりそうなのだが。

「今の時代って地道に働いても楽して過ごしてもつまらないんですよ。
俺達は目立ちたいわけじゃなくて試合してお金が欲しいだけなので特定されるリスクが付き纏うなら、番組スタッフに中間になってもらう方が現実的かなと。」

野谷は彼らの話を掻い摘んでいく。

「間違っていたら訂正して欲しいのですが、映像があまりにも恐ろしくて私達の協力が欲しかった。ということでしょうか?」

男子高校生はこくりと頷く。

「格闘家だからって幽霊は平気なんて未だに思われるのも嫌じゃないですか?
けれど廃墟でトレーニングしているのにそんな事を言ったら変な人とも思われそうですし。」

少々フォローに困る話が出てきた。

映像を確認した男子高校生達は出所も不明な映像を観て、トレーニングをジムで行なったという。

「自分達はホラーとかそういうのは信じてないのですが、あの映像を見てから自分達の周りでよくない事が続いていて。」

彼の話では、立て続けに対戦相手が怪我となり試合ができない現象が続いているという。

私達は映像を確認した後に、VHSが置いてあった廃墟へ投稿者である男子高校生と行くことにしたのだが。

◎向かった廃墟

私達は映像を送ってきた男子高校生の案内で、廃墟へと向かう。
すると、もう一人の男子高校生がトレーニングをしていた。

野口がマイクを構えて質問をする。

「すみません、某―の小口と言います。
貴方は、この方と一緒に映像をお送りして下さった―さんですか?」

男子高校生はストレートを打つ手を元に戻し、頷いた。

「俺に頼んでおいて自分はここでトレーニングか。
このタイミングでは嬉しいけど、よく続けられるよな。」

野谷は「それがプロですから。」
と言い、男子高校生は「そ、そうですよね。俺が投稿している場合じゃないわけだし。」
と現場が気不味くなった。
小口は彼へインタビューをした。

彼の話だと廃墟でのトレーニングは昨年からやっていて都市の中で人が少なく、段差や海もあるこの地でのトレーニングは欠かせなかったという。
廃墟への関心は無く、ただ練習の事を考えていたらしい。

「それで、このVHSを見つけたのは―さんと一緒にトレーニングをするようになったからですか?」

彼は話をしてくれた。

「まさか本当に投稿するとは思いませんでしたよ。
最も試合が関係ない所で怪我人が頻発しているというのは只事では無いんですけどね。
こうなってくると呪いというより、悪戯にVHSを俺も置いた人間と怪現象をとっちめてやりたくなる。
だから貴方達を探していました。」

報酬が欲しい彼と真相を共につきとめたい彼の利害が重なった瞬間だった。

私達は廃墟へ入り、VHSが置かれていた場所を見つける。
彼らの話では散らかったいたその場も綺麗になっていた。
きっと管理者かその関係者が整理したのだろう。

すると気になる文字が見つかった。

カ ク ゴ……ロ……

「かくごろと読むわけではなさそうですね。」

「一文字抜けている。
これは宣戦布告かもな。」

「いやあ、それは疑い過ぎだろ?
俺達もそんな煽りは今時しないし。」

この場の全員がこの文字のうち何が抜けているのかを理解した。

出処不明の映像に映し出されていたメッセージ。

8ミリフィルムで映し出された和室の居間で佇む女性。
堅気の雰囲気とは違った彼女が、最後にポツンと消えて崖の下の映像へと切り替わっていた。

それは、私達が踏み入れては行けない現実での歴史なのかも知れない。

◎バイトへ

二人は本業とするプロ練と、もう一つ仕事があった。
インターネットでは送られてこない投稿ビデオを確認するという業務内容なのだが。

「俺達もリモートワークの方へ行きたかったけどまあ、この仕事はアナログになるかあ。」

「不思議だよな?ボディガードすら頼めないなんて。」

自分達が居ることで、悪戯で映像を事務所へ投函する人間の駆逐に成功した。
武力を行使はしていない。
自分達が放つ「怖さ」がアンダーグラウンドを寄せ付けないらしいのだ。

「けど、俺達って霊媒師でも何でもないだろ?何がそんなに怖いんだろうな。」

「喧嘩自慢が流行った程度じゃ怖さは伝わらないと思うが。」

そう言った彼の後ろにハッキリと髪と手があった。
しかも彼はその気配に気付き、僅かに睨んでいた。

えっ?

「どうした?突っ立ってるだけじゃ、カメラの仕事貰えないぞ!それでも確認班か!」

「いや、俺達無理やりバイトさせられているだけなんだけど忘れてないか?」

こうした会話ではぐらかしているが俺が何故、彼が廃墟でトレーニングをしていたのかを察した。
そして、今後親しくなってもその事を話すことはお互い無いと確信した。

け、けど、俺も感じたあの気配ってまさか。
いや、知らない方が幸せな事もある。
仕事へ戻ろう。

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