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マユコのはなし

 マユコとはとつぜん仲良くなった。小学校四年生のことだった。

 ある日の放課後、なんとなく一緒になった帰り道に、わたしたちはまるでこれまでずっと仲の良い親友だったみたいに話が止まらず、道端で何時間もおしゃべりをした。

「デジモンって、ポケモンよりもたまごっちに似てない?」マユコは言った。
「そうかもしれない」
「でしょ? 一匹だけ育てるところとかさ、似てない?」

 わたしは先日お祭りのくじ引きでゴジラ版のたまごっち(のバッタモン)を当て、育てている話をした。マユコがとても興味を持ってくれたので、翌日学校に持って行き、放課後の帰り道に見せた。

「ゴジラだけど、なんか違うね」

 マユコとは、よく犬の話をした。

「リサちゃんの家にタロウくん、見たことある?」
「あるよ。シェットランド・シープドッグ」
「かわいいよね。でもわたしはビーグルが好きだな」
「わたしはコーギーがいいな」

 そんなふうに、二人でいつか飼う犬の話をした。ポケモンもたまごっちもゴジラもどきも面白いけれど、団地住まいのわたしたちは、ほんとうは犬が飼いたかった。

 マユコと仲良くなったのは、マユコの転校する十日前ほど前のことだった。団地に囲まれたわたしたちの小学校で、転校は珍しいことではなかった。

 ある日マユコと団地の裏の草むらで、鴉の死骸を見つけた。放課後のわたしたちは、鴉の死骸を眺めながら、取り留めもなく話をした。

「わたしたち、もっと早く仲良くなればよかったね」

 マユコが転校した後、わたしはしばらくひとりで鴉の死骸を見に行った。鴉は、いつまでも生きているような羽毛を纏ったままちいさくちいさくなっていき、やがて雪が降り、埋もれてしまった。ゴジラのたまごっちは電池が切れたので、交換しようと内蓋をあけたらボタン電池だったので、億劫になってそのまま触らなくなった。

 そんなふうにさみしさは、うすくうすくひきのばされていって、やがて両親が家を買い、私は団地を出た。団地を出たら飼ってもいいと言われていたけれど、けっきょく新しい家に移り住んでも、犬を飼うことは許されなかった。

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